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デジタル・トランスフォーメーションが経営の必須科目となって久しい。しかし、多くの日本企業において、その成果は依然として限定的であり、変革は停滞の様相を呈している。その根源にあるのは、テクノロジーの選定ミスや投資不足ではない。Ridgelinezの水谷広巳氏は、新著『Leading Transformation チェンジリーダーが挑む「人起点」のデジタル変革』で、真の課題は過去の成功体験に固執する「経路依存性」にあると喝破した。この構造的課題を経営者はいかに乗り越えるべきか。水谷氏が、その戦略的処方箋を提示する。
変革を阻む「経路依存性」と
リーダーシップの不在
多くの経営者がデジタル・トランスフォーメーション(DX)の号令をかけているが、全社的な変革にまで至らない。この停滞の根源には、「経路依存性」が存在する。過去の成功モデルや組織構造が、未来に向けた合理的な意思決定を阻害しているのだ。Ridgelinezの執行役員Partner、水谷広巳氏は、この問題の深刻さを次のように語る。
「DXが進行すると、人と組織の課題に直面します。組織内に潜在していた問題が、DXをきっかけに顕在化するのです」
たとえば、長年の経験と勘に基づく需要予測で成功を収めてきた組織では、データドリブンな予測システムを導入しても、現場の抵抗に遭い形骸化してしまう。これは単なる現場の保守性という問題ではない。成功体験を評価し、それを前提に構築されてきた組織文化や人事制度そのものが、新たな挑戦へのインセンティブを奪っているのだ。水谷氏は、「この状況を打開するためには、経営層が過去の成功モデルではなく、未来の成功モデルを明確に定義し、それへの挑戦や新しい学習を評価していく必要がある」と断言する。
この変革を主導すべきリーダーの不在も深刻だ。デジタル化を主導するCIO(最高情報責任者)やCDO(最高デジタル責任者)の在籍率が欧米に比べて著しく低い日本では、ビジネスとテクノロジーを統合し、全社的な変革を推進する司令塔が欠けている。結果として、各部門は慣れ親しんだ過去のやり方に戻ってしまい、経路依存性はさらに強化される。
求められるのは、CIO/CDOの役割の再定義と、経営における権限委譲である。「これまでCIOはITシステムの安定運用やコスト管理の責任者という認識が強かったですが、今後はテクノロジーを活用してビジネス価値を高め、新たな価値を創造する役割へと変革していかなければなりません」。そのためには、「CEOは事業戦略の策定段階からCIOやCDOを巻き込むことが重要です。経営戦略や事業戦略を検討する際には、CIOやCDOが常に参加する体制を構築し、相応の権限と責任をセットで与えることが不可欠です」と水谷氏は提言する。