交渉を〝場当たり的〟に進めていないか

 今日の企業は、複雑に入り組んだネットワークの中にあり、交渉の数が増えれば、そのぶん複雑さも増していく。言うまでもないが、仕入れやアウトソーシングを依頼する場合、その仕入先や外注先と交渉する。そのほか、マーケティングならば国内外の販売代理店と、サービスや商品の内容については消費者と、商品開発の契約にあたっては合弁先と交渉する。

 すべからくビジネスは、「交渉」なくして始まらない。

 一つの交渉が事業全体に与える影響は、さしたるものではないかもしれない。しかし、一般的な企業を一つ取り上げてみても、そこで行われる交渉は何千という数にのぼり、それらは複雑に干渉し合いながら、企業戦略とその結果に大きな影響を及ぼしている。

 私は長年、ビジネス交渉術のコンサルタントを務めているが、多くのビジネスマンが交渉という知的活動を体系立てて考えたりしないことに気づいた。むしろ、ほとんどの交渉が場当たり的に進められている。

 交渉ごとに、その目的や戦術、成功の評価基準は異なるはずだ。そのため、その一つひとつは望ましい結果だったかもしれないが、高次元な戦略的視点から見ると逆効果になっていることもある。

 たとえば、購買契約を結ぶ際、自社にばかり有利な条件で交渉してしまうと、その仕入先との長期的な関係を損ないかねない。また、ある消費者のわがままなニーズに例外的に対応してしまうと、市場全体に対応できなくなったり、商品戦略そのものを台無しにしたりすることさえある。

 なぜ我々は、交渉という部分を全体から切り離してしまうのだろう。

 その理由は単純である。交渉というものは、どれもこれも一筋縄ではいかないからだ。おしなべて交渉では、相手から何とか有利な条件を引き出したいと思う一方、取引を成立させるためには条件を緩めなければならない場合もある。つまり、この対立する関係をバランスさせなければならないのだ。

 たとえば、注文を増やすために、どこまで価格を下げられるのか。長期的な関係を重視すべきか、はたまた短期の取引を成立させることに専念すべきか。他社に先駆けてまず自社の条件を提示すべきか、他社が手の内を見せるのを待つべきか。この取引をつぶさずにおくべきか、いますぐ手を引くべきか。交渉の駆け引きはどのような場合でも非常に悩ましく、ましてや、あらゆる交渉を統制しようなどと考えても土台無理である。