コンサルティング・ファームに見る知のマネジメント

 ナレッジ・マネジメントという考え方は、何も新しいものではない。何百年もの間、同族企業のオーナーたちは代々、経営の知を次世代に伝えてきたし、職人たちも苦心を重ねて専門技術を弟子に教え込んできた。また、知識労働者たちも、仕事に関するアイデアやノウハウを提供し合ってきた。

 経営者たちがナレッジ・マネジメントを意識し、口に出し始めたのは、1990年代に入ってからのことである。先進国の経済基盤が天然資源から知的財産に移行するにつれて、経営者たちは、自社ビジネスの屋台骨となっているのは知であり、これをいかに利用するかが重要な課題となったことに、注目せざるをえなくなってきた。

 同時に、コンピュータ・ネットワークの進歩によって、ある特定の知をデータ化し、蓄積し、共有するといったことが、かつてないほど容易に、かつ低コストで実現できるようになった。

 いずれにせよ、ナレッジ・マネジメントが意識されるようになったのは最近のことであり、成功事例はほとんどない。つまり、経営者たちがナレッジ・マネジメントに取り組もうと思っても、他社の成功事例を学ぶことができない、というのが現状なのだ。そこで我々は、最近さまざまな業種で実践されているナレッジ・マネジメントを研究し、このギャップを埋めようと試み、手始めに経営コンサルティング・ファームを調査した。

 というのも、コンサルティング業務の核となる経営資源とはまさしく知であり、他の業界に先駆けてナレッジ・マネジメントに着目しており、そのためには膨大な金額を惜しむことなく投じてきたからである。また、知を入手し、提供するために、情報技術(IT)を駆使する方法を貪欲に探究している。

 これらの経験は、ナレッジ・マネジメントを実現させる方策を考えるうえで、何らかのヒントを与えてくれるはずである。これは、コンサルティング・ファームのみならず、優秀な人材や優れた発想を中核的な資産としている企業すべてに当てはまることである。

 我々の調査によると、一口にコンサルティング・ファームと言っても、ナレッジ・マネジメントに対するアプローチが一様なわけではない。コンサルティング業務に取り入れられているナレッジ・マネジメントは、2種類に大別される。

 ある企業では、コンピュータに力点を置いた戦略がとられている。さまざまな知が慎重にコード化され、そしてデータベースに入力され、従業員全員が容易にアクセスできるようになっている。我々は、これを「コード化戦略」(codification)と名づけた。

 一方、知とそれを生み出した人物は不可分であり、知は直接、人から人へと受け継がれていくと考えている企業もある。そこでのコンピュータの役割は、知を保存するためというよりも、知を交換し合うためと位置づけられている場合が多い。我々は、これを「個人化戦略」(personalization)と呼ぶ。

コード化戦略か個人化戦略か

 どちらの戦略を選択するかは、その企業が顧客にどのようなサービスを提供するのか、その業種にどのような経済的特徴があるのか、どのような人材を雇用するのか、といった要素に左右されるものであり、けっして気まぐれや偶然によるものではない。つまり、誤った戦略を無理に導入したり、コード化戦略と個人化戦略を同時に採用したりすると、たちまち業績に悪影響が表れる。事実、いくつかのコンサルティング・ファームの経験から明らかにされている。