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知があっても実践に移さない企業
まず2つの例を考えてみよう。どちらも悲しくも実際に起こったものであり、しかもよくある話である。
「ある国際的な石油会社では悲惨な数字が財務諸表に記されようとしていた。売上高、利益、石油価格がすべて低下していたのだ。役員たちはこの数字を屈辱に思い、戦略と事業を大幅に改革することが急務だと考えた。しかし、役員が実際に何をしたかといえば、暗くした部屋で、会社の業績を紹介するビデオを半日かけて見ていただけであった」
「ある大手家具メーカーは、製品化の時間が遅すぎるという厄介な問題に直面していた。そこで何が悪いのかを知るために、ベンチマーキングを実施した。その結果、プロジェクト別の組織形態にすれば問題は解決することが示された。しかし、1年以上経ったというのに、変革はまったく進まなかった。役員は組織再編に賛成だったが、依然として会議に次ぐ会議を続けているというありさまで、重い腰を上げることはなかった」
この2つの話の共通点はある種の「怠慢」である。このような怠慢は、規模や業種に関わらず、どんな企業にも蔓延している。我々は4年を費やして100社近い企業を研究してきたが、この怠慢はグローバルなコングロマリット企業、設立まもない従業員20名程度の企業、資本集約型のメーカー、知識集約型のサービス企業などで、例外なく散見された。無関心や無知による怠慢ではなく、さまざまな知を豊富に持ち合わせているのに何もしないのである。我々はこの現象を「知と実践のギャップ」と呼んでいる。
売上高や顧客満足度が低下した場合、あるいは生産性や品質に問題が生じた場合など、役員たる者、どのように対処すればよいのか心得ているものだ。対策を練るのに自らの経験と洞察力、同僚の意見、最新の情報システムのデータなどを総動員する。
それでも足りないのなら、社外の手段を活用すればよい。たとえば、毎年世に発表される何千もの記事、1700余冊の実務書、最新のツールと知識を備えた多数のコンサルタント、専門家の各種セミナー等々である。今日のビジネスの世界では、ノウハウと呼ばれるものはそこかしこにあり余っている。
このように、知識が周りにあふれているにもかかわらず、たいていの場合、何も起こらないし、何もしない。たしかに、なかには考えを実践に移すのに長けた企業もある。有名なところをいくつか挙げてみれば、ゼネラル・エレクトリック、IDEO(アイ・ディー・オー)プロダクト・ディベロップメント(以下IDEO)、AESコーポレーションなどである。
しかし、これらは例外中の例外であって、ほとんどの企業は知と実践のギャップを埋めるのに四苦八苦している。怠慢がたたって実践に移さなかったために会社が傾く。問題が悪化して成長するチャンスを逸する。優秀な従業員が不満を抱いて去っていく。このような消極的な状況が改まらないようでは、顧客や投資家も同様の反応を示し、他社に金を投じることになるだろう。
なぜ知と実践のギャップが起きるのか。どうやら、行動せずに議論したがるという人間の性向が、その原因であることが多い。T. S. エリオット(編集部注:イギリスの詩人で批評家。1948年にノーベル文学賞受賞)は人間の怠惰さをテーマに『虚ろな人間』を著したが、その中に「概念と創造の間に、影が射し込む」と記している。



