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成功の秘訣は「パッチング」にあり
アイダホ州ボイシにヒューレット・パッカード(以下HP)の戦略拠点がある。1984年、ここでレーザー技術を活用したコンピュータ・プリンティング分野の新規事業が産声を上げた。
マネジャーたちは当初、単月当たりの販売台数を約1万台と想定していた。ところが、いざ製品が発売されるやいなや、販売台数はたちどころに月10万台に達したのである。ボイシで生まれたこの新規事業は、80年代の終わりには、同社の成長を支える50億ドル規模の事業へと躍進していた。
この事業を支えていたのは、1つならぬ3つのプリンティング技術であった。今日ではプリンタ事業は、デジタル写真、ワイヤレス情報配信(1)、eコマース・イメージング(2)といった分野へも発展している。そしていまなお、成長の牽引役を果たしている。
この一連の成功の背後には、どのような秘密が隠されているのだろうか。実は、HPのマネジャーたちは、我々が「パッチング」と称する全社レベルの変革プロセスを活用していたのである。パッチングとは、選択と集中に徹しながら事業をミックスさせ、さらにビジネスチャンスの変化に柔軟に対応できるよう、これらの事業ミックスを頻繁に組み替えるというアプローチである(3)。
たとえば、HPではレーザー・ジェット・プリンタ事業におけるコア・ビジネスのいくつかを切り取り、そこからネットワーク・プリンタなどの新規事業の芽を育てている。そこには、マネジャーを好調な事業分野に少しでも長く専念させる、という狙いがある。また同社は、スキャナーやファックスなど関連製品事業にも進出したり、既存のスキルを有効活用して最大限のスケール・メリットを享受するために担当セクションを変えたりと、さまざまな策を講じている。
HPではほかにも、複数の事業を統合することで新たな成長の糧を生み出そうとしている。統合によってクリティカル・マス(臨界点、または閾値)を超え、キャッシュフローを増大させる狙いだ。象徴的な例として、インク・ジェット技術を応用して第2のプリンタ事業を立ち上げ、後にはウィンテル(Wintel: WindowsとIntel)とUNIX系のコンピュータ事業をよみがえらせたことがある。
これらは、HPがパッチングをいかんなく活用した好例である。これらの事業は今日、総利益のおよそ80%を占めている。
パッチングとは何か
パッチングとは、ビジネスチャンスの変化や移動に合わせて、絶えず事業をマッピングし直す、戦略的プロセスである。新規事業の追加や立ち上げなどによる事業の拡大、事業の分割、担当事業部の変更、市場からの撤退、あるいは事業の統合など、一口にパッチングと言ってもその形態はさまざまである。
パッチングは、変化の少ない市場ではさほど重要ではないが、環境変化が目まぐるしい市場ではとても効果的だ。パッチングを用いることで、マネジャーは経営資源を絶好のビジネスチャンスに集中させ、さほど有望ではない事業への投資を抑えることができる。刻々と変化する市場の動きに敏感に反応し、スピーディに、かつ先を読んで適応できるならば、いま以上に大きな可能性を秘めた分野に集中するチャンスが増える。そこで利益の源泉を掘り当てられれば、さらに有効な戦略を推進できるばかりか、ひいては企業価値向上につながるのである。
パッチングを「組織改編の別称ではないか」と思う人がいるかもしれない。しかし、パッチャー(パッチングの実践者)の価値観や思考様式は常識を破壊するものである。従来型のマネジャーは組織構造を不変のものと見なしているが、パッチャーの場合は、一時的なものと考える。



