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「ティーチング」こそフォードのDNAを変える最高の方法
1999年1月、フォード・モーターのCEO(最高経営責任者)に就任したジャック・ナッサーが、財務アナリストとしてフォード・オーストラリアに入社したのは、1968年のことだった。
彼はレバノン出身だが、家族と共にオーストラリアのメルボルンに移り住んだ。そこで10代を過ごしたが、当時から自転車の組み立てやディスコ経営といった事業を立ち上げていた。
彼の父はオーナー経営者であったため、息子が企業家として成功することをむしろ暖かく見守っていた。だから息子から、ヒエラルキー型の巨大メーカーに就職するという決意を聞かされたとき、父が仰天したのは無理もなかった。
「いったい何だって人に頭を下げて働かなきゃならんのかね」と父は尋ねた。父にとってビジネスの醍醐味とは、オーナーとして采配を振るうことにあったからだ。
しかし、フォード入社後31年経った今日、ナッサーは、社員たちに自分の父と同じ考え方を持つように呼びかけている。すなわち、会社のオーナーと同じ意識を持って行動すれば、ビジネスの醍醐味と成功の喜びを味わうことができるというのである(事実、未発行株の20%は社員が所有している)。
ナッサーは社員に対して、資本の原理から自社を見つめ直す、つまり、一般の株主同様、フォード全体について考えるように指導している。インタビューの中で彼自身が説明しているとおり、このような考え方は、フォードにとっては過激なまでに異質である。フォードは、これまで長きにわたり、機能上、または地域上の専門性を持つ、強力かつ独立性の高い部隊の集合体として、運営されてきた。
「フォードの各部隊は、必ずしも互いに争っているわけではないのですが、その可能性もあながち否定はできません。しかし、一方で、すべての部隊を内包する容れ物全体の具合を気に留める様子もさして見受けられない」とナッサーは語る。
彼は、フォードの上級管理職200余名が集まった2年前のミーティングを振り返ってこのように語る。「自分の統括する部隊のことは、各々に知り尽くしていたものの、会社全体の資産について説明できる者は皆無でした」。加えてPER(株価収益率)やEVA(経済的付加価値)となると、だれもお手上げという状態だった。
ビル・フォードが、会長として取締役会を統率しているので、ナッサーは、会社そのものの統率に全力投球できる。CEOとしての唯一の目標は、フォードの縦割り意識を打破し、21世紀には消費者を、ひいては資本市場を――歓喜させるには至らずとも――満足させるに足るメンタリティを全社員に定着させることにある。
しかし、そのような変革をいかに実現させようというのか。なんといってもフォードは200カ国に34万人もの社員を抱える巨大企業である。するとナッサーは、「ティーチング(教育)を通してだ」と答える。



