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ユーロ導入の問題点と解決への視点
ニコラス G. カー
HBRシニア・エディター
1999年1月1日、ヨーロッパ11カ国(オーストリア、ベルギー、フィンランド、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルク、オランダ、ポルトガル、スペイン)の参加する通貨統合がスタートし、ユーロが共通通貨となった。
ある意味で、ユーロの発進は一つの儀式だと考えられる。すなわち、経済的統合へ向けた長い行程の中でたった一歩前進したにすぎないのだ。この通貨統合の準備には結果的に何年もの時間がかかったが、旧通貨が事実上消滅するのは2002年7月1日になるという。しかし別のもっと深い意味で、1月1日は、一つの経済秩序の終焉と新たな経済秩序の始まりという、構造的な変革が起きた瞬間を意味している。また同時に、構造的な不確実性を意味しているともいえる。新しい秩序がどんな姿になるのか、だれも予測できないのである。
一つだけ明らかなことがある。単一通貨への移行により、マネジャーたちは、ヨーロッパでビジネスを行うための前提の多くを考え直さざるをえないということだ。従来は各国通貨が混在していたために、ヨーロッパ大陸という一つのくくりでとらえることは、企業にとって常に難しいことだった。どんなによく練られたヨーロッパ市場の全体戦略も、為替レートの変動で台無しになることがよくあった。国ごとに、製品やブランドの位置づけ、価格設定やマーケティング、製造や原材料調達、ファイナンスや経営管理を考えるほうが、容易かつ安全だった。
だがユーロの導入で、通貨リスクは姿を消した。いまや全ヨーロッパ的な思考は現実的なものになったばかりか、非常に重要なものになった。企業の効率性や競争力は、多くの場合、サプライチェーンの合理化、生産設備の統合、統合的な製品・マーケティング戦略の創造ができるかどうかで決まるようになるだろう。
しかしながら、ユーロ導入で国家レベルの展望が重要性を失うわけではない。通貨統合に伴って、文化的あるいは言語的な統合まで行われることはないので、各国市場の間の相違点は根強く残ることになろう。それはつまり、企業がかつて経験したことのないような、国家的視点と大陸全体の視点の正しいバランスを探し求めなくてはならないことを意味する。
これから紹介するのは、単一通貨のもたらすさまざまな影響と戦い続けてきた、ヨーロッパの経営者による5つの展望である。読者が、自分のビジネスにとってユーロがどんな意味を持つのかを考える一助としていただきたい。
筆者たちは幅広い産業(小売業から、消費財メーカー、重工業に至るまで)を代表し、幅広い意見を提示している。彼らの中には、ユーロの出現を、勝手知ったるビジネスの潮流の延長線上にあるものと考える人もいる。また、ユーロの発進を断絶点、すなわちビジネスの基本構造に生じた裂け目だととらえる人もいる。彼らの展望を組み合わせれば、ユーロが生み出す問題点を見定め、可能な解決策に目を向けるのに役立つことだろう。
より統合された組織と戦略へのプログラム
フランシスコ・カイオ
メルローニ・エレクトロドメツティッチ CEO
従来の組織構造の見直し
ユーロの導入は、ヨーロッパ経済の統合という長く連続した道のりにおいて、また一歩前進したことを表す。ほとんどの産業ではすでに多くの変化が生じており、わが社の競争の場である大型家電製品の業界も例外ではない。流通経路が統合され、一握りの小売業者が市場の大きなシェアを手に入れた。各国の規制もヨーロッパ全体で次第に標準化されてきている。また、ヨーロッパ全体をカバーするメディアや通信の増加により、人も企業もお互いの距離が近づき、国際的ブランドの魅力が増した。



