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序論
ネットワークの広がりが混乱を拡大する
2000年問題で驚くほどの資源が浪費される
リチャード L. ノラン(Richar L. Nolan)
ハーバード・ビジネススクール テクノロジーマネジメント 教授
ほとんどの経営幹部は、一般にY2Kとして知られる2000年問題については、もうとっくに承知しているであろう。
しかし、知っていることと管理できていることは同じではない。間近に迫った「00」の年号コードを「2000」ではなく「1900」と理解してしまうソフトウエア・プログラムを修正する必要があるという、この一見ささいな問題は、いくつかのレベルで、ほとんどの人が考えていたよりもはるかに対応が難しいことがわかってきた。
なぜかと言えば、この問題は見かけ以上に根が深く、あまりにも多くの企業が、あまりにも長い間この事実に気づかなかったからだ。なるほど、すぐに目につくコードは修正できるかもしれない。たとえば、給与計算システムや流通や販売実績把握プログラムなどだ。しかし、現金自動預け払い機(ATM)やエレベーター、プロセス制御装置、全地球測位システム(GPS)などに使われている何百億個ものマイコンチップに埋め込まれたコードはどうだろうか。
たとえば、下水処理プラントのマネジャーは、施設の2000年への適合性をチェックし、問題は解決済みと判断した。そして、プラントのシステムが2000年以降も稼働するかどうかテストしてみたのである。ところが、プラントのコンピュータの時計を2000年1月1日にセットしてテストを行ったところ、驚いたことに未処理の下水が直接、湾内に流れ込んだ。
同様に、ウォールストリート・ジャーナル紙は1997年に、アメリカ連邦航空局(FAA)の2000年対策チームがアプリケーション・ソフトではなく、1台のコンピュータのハードウエアに日付コードの問題を発見したと報じた。このコードは、大型の水冷却式メインフレーム・コンピュータが自動的に一つの冷却ポンプから別のポンプへ切り替えられるようにしたものだった。もしこの問題に気づかず、修正しなかったら、ボンプのスイッチがうまく働かず、コンピュータはオーバーヒートして故障していたろう。
FAAは、当時の技術資料もソフトウエアを書いた技術者も見つからないほど古いIBMのメインフレーム・コンピュータを20台以上使っており、システムを2000年対応にするための助言を求めた。
たとえ自分の組織が内部の問題にもれなく対応していたとしても、自分の会社が依存している組織のうちどこかが対応していないかもしれない。世界の企業は総じて、2000年問題への対応においてはアメリカ企業に大きく後れを取っている。多くの企業はほかの、一見より差し迫った問題に専念している。
たとえば欧州連合(EU)加盟国の企業は、単一通貨への切り替え作業の真っ最中で、この作業は99年初めまでにやらなければならない。これらの企業の2000年問題への配慮はごくわずかで、ましてや自社のコンピュータ・システムとよそとの接続に関連した、まだ認識されていない問題などはまるで眼中にない。また、日本企業のトップのおそらく7割以上は、2000年問題が事業活動を混乱させる恐れがあることに気づいておらず、この問題についてきちんとしたリーダーシップを発揮していない。



