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無形資産の潜在価値は高い〝負け犬〟事業にどう対処するか
事業ポートフォリオ上で、いわゆる〝負け犬〟の象限にプロットされる事業は、一般的に閉鎖や撤退という処置がとられる。運よく工場や土地などの有形資産を持っていれば売却された。また、コア事業ではなくとも、高業績を上げている事業は、高値を付けた入札者の手に渡っていった。
多角化した大企業では、事業ポートフォリオを整理する際、「基本的に健全だが、企業ビジョンに合わない低業績事業をどのように処分すべきか」という厄介な問題――その内情は傍目にはわからない――に直面している。
しかし、コア事業との関係すらない傍流の事業が――価値の高い有形資産もなく、経営者の無関心に悩まされていることが多いだろうが――驚異的なブランド力、圧倒的なマーケティング力、知識と経験豊かな人材、効率的な流通システムを持っているかもしれない。もし競合他社が自社のこれらを同じ水準にまで育て上げるには、かなりの年数を要することだろう。
リストラを進めるにあたって、これら無形資産の価値を重視しようにも、その種の事業はアニュアル・レポートを飾るような話題性に乏しいゆえ、世界のトップクラスへと成長させるために必要な時間と投資を正当化できない。結局、このような事業の買い手を探すことになるが、そのとき2つの問題に直面する。
第1は、知らないことを伝えることがいかに難しいかである。潜在ニーズを持った買い手に、この事業の真の価値をどのように伝えればよいだろうか。
たいていの買い手は、定量的に評価できない資産に対してディスカウントを要求するだろう。見ることができない、触ることもできない、ましてや測定もできない資産に進んでプレミアムを支払おうとはしない。
また、買い手は「我々は知らないが、売り手だけが知っている弱点がどこかにあるのではないか」「売ろうとしているのはなぜか」と疑っているはずだ。それゆえ最終的には、その事業のコア・コンピタンスが目に見えない場合、売り手が想定する価格水準よりも低いレベルの価格で取引が成立する。
第2は、その事業を売却するまでの期間中、その事業の健全性をどのように維持するかである。言葉を換えれば、その事業を整理する時期を迎えて、事業に関わるすべてのステークホルダーにどのような責任を果たさなければならないのかということである。
事業を売却する際に「大売り出し」のステッカーを張ってしまうと、従業員の士気を低下させるばかりか、顧客や販売業者、それに納入業者に不信感を与えてしまうことは火を見るよりも明らかだ。したがって、事業を競売にかけることは、価値を強化させるというより、むしろ価値を減少させることになりかねない。
これらの課題を解決できずにいると、その事業は放置され、競争力の維持に必要な資金を集めることはできない。結局、売りに出せば真の価値を大きく下回る、数分の1程度の資金しか得られないと知りながらも、やむなく競売にかけなければならない。



