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製品開発力の源泉6つの組織メカニズム
国際的な競争にさらされてきたアメリカのメーカーは、ここ10年間、一種のルネッサンスを経験してきた。このルネッサンスは、まず工場現場での品質向上への取り組み、廃棄物の削減、処理の迅速化などから始まった。まもなく関心は製品開発という川上部分に転じたが、ここでは日本企業が、市場化時間、設計品質、製造しやすい製品設計、コスト、あるいは生産性など、どのような指標から見てもアメリカの競合企業を凌駕していた。
そして識者は、日本を成功に導き、またアメリカ製造業の弱さの根源となっているのは、製品設計と製造工程設計の統合、そして製品設計とマーケティング、調達、財務など機能部門との統合であるという結論に達したのである。
多くの企業がこの問題に正面から取り組んだ。典型的な解決法は、品質機能展開や田口メソッドのような製品開発ツールであった。同様に企業は組織面での解決策も導入したが、その解決策は、基本的な機能別組織には手をつけず、人員を一時的にプロジェクトチームに配属する形のものから、クライスラーが90年代初期に行ったように、機能別組織を解体し、製品を中心に再編する形のものまでさまざまであった(私たちはここでは「機能」という言葉を、新しいモデルを十分に機能させるために必要な専門的経験を持つさまざまなグループという広い意味で用いている。この専門的経験という中には電気系統、ボディ、あるいはテスト・エンジニアリングなど、設計工程に含まれるエンジニアリングの専門性はもちろん、製造やマーケティングなど他のビジネス機能が含まれる)。
これらの新しい解決法により、企業は製品開発を大きく改善し、市場でも劇的な効果を上げた。しかし同時に、それ自体が新たな問題を生み出すことになった。機能部門横断的な調整により改善はなされたが、一方で人々が自分の機能部門の仕事に従事する時間が短くなったので、その仕事についての知識を深めることが難しくなった。異動が短期間で行われるため、プロジェクト横断的な組織内での学習能力も低下した。製品横断的な標準化も、製品チームが次第に自立性を高めるにつれて損なわれてきた。
機能部門とプロジェクト・ベースの構造を結合した組織では、エンジニアは、自分の部門の上司の命令とプロジェクト・リーダーの要求との板挟みに苦しむことが少なくない。こうした新たな問題が損失をもたらすにつれ、アメリカ企業はその製品開発システムの効果が高原状態に達したことに気づき始めた。より重要なのは、その効果そのものが、最高の日本企業の水準にはとても達していないとわかったことである。
本稿は、こうした日本企業の一つであるトヨタが、いかに自動車開発プロセスをマネジメントしているかを解明しようとするものである。私たちは、あらゆるレベルの経営幹部に対する詳細なインタビューを通じて、トヨタのプロセスを5年間にわたって研究した。
興味深いことに、同社は、私たちが考えている日本型製品開発のモデルとは、多くの点から見て実際には異なっている。統合の段階はかなり進んではいるが、機能別組織を堅持しており、そこで行われていることの多くは、今世紀初頭の製造業の最盛期にアメリカ企業が採用していたものと似ている。
私たちは、トヨタの経営慣行を6つの組織メカニズムにグルーピングした。そのうち3つ、すなわち相互調整、密接な指導、および製品責任者による統合的なリーダーシップは、本質的には社会的プロセスである。残る3つ、すなわち標準技能、標準化された作業工程、設計規準は、標準化の様式である。
これらのメカニズムは、それぞれ単独ではほとんど効果を発揮しないが、すべての部分がそれ自体の役割を持ちながら、同時に相互に補強し合っており、これはアメリカ企業が用いている洗練されたツールや手法が、多くの場合、独立して実行される傾向にあるのとは対照的である。
これらのメカニズムが一体化されて、トヨタの緊密にリンクされた製品開発システムが実現されており、これによって一方で機能横断的な調整を達成しつつ、他方では機能別組織内の専門的経験の蓄積も可能となっている。このバランスによって、同社はプロジェクト相互の統合を実現でき、また時間の経過とともにプロジェクト内部での統合をも達成できるのだ。



