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サプライチェーンの類型は商品の種類によって違ってくる
かつて、サプライチェーンの効率改善のために、いまほど多くの技術と頭脳が駆使されたことがあっただろうか? たとえば、POSシステムの登場により、多くの企業が顧客の声を身近に把握できるようになった。ネットワークを介した電子データ交換、EDI【*】が当たり前に行われるようになり、サプライチェーンのすべての段階でそうした顧客の声を直接聞き、対応するようになった。需要に応じた生産方式を取り入れ、在庫管理を自動化し、流通を早めることができたのである。さらに、「QR【*】」「ECR【*】」「アキュレート・レスポンス【*】」「マス・カスタマイゼーション【*】」「リーン生産方式【*】」「アジル生産方式【*】」などの新しい概念が登場し、サプライチェーンの効率化を目指して、新たな技術を駆使したモデルが模索されている。
しかし、多くのサプライチェーンの効率は、けっして改善されたわけではない。場合によっては、サプライチェーンの中での相互の協力関係がうまくいかなかったり、値引きによる販売促進に頼りすぎるなど、業界ごとのこれまでの慣習が妨げになったりすることもある。そのために、逆にコストは以前に比べて上昇しているという話もある。
たとえば、アメリカの食品産業についての最近の調査によると、サプライチェーン内の協力関係の調整がうまくいかなかったことにより、毎年300億ドルものお金が浪費されているという。他の多くの産業においても、需要の予測を読み誤り、いくつかの商品の在庫が過剰になったり、不足したりしているという。また、あるデパート・チェーンにおいては、不良在庫を一掃するために値引きが日常化していたが、顧客へのアンケート調査を行ったところ、実際には来店者のうち4人に1人が何も買わずに帰っていることが判明した。その理由は、買おうと思っていたものに限って在庫がなかったからだという。
先に述べたような新しい概念や技術が、サプライチェーンの効率向上につながっていないのは、なぜなのか? それは経営者側に、自らの企業の状況にどの手段が最も適しているのかを判断するプロセスが、欠如しているからではないだろうか。筆者は10年間にわたって、サプライチェーンに関する研究やコンサルティングに携わってきた。その業界は、食品からファッション・アパレル、そして自動車まで多岐にわたるが、その結果、この判断プロセスを編み出すことができたと思っている。それをもとにすれば、経営者は自分たちの商品への需要の本質を理解し、それに的確に対応したサプライチェーンを構築できるであろう。
したがって、効率的なサプライチェーン戦略を構築するには、まず自らの企業の商品に対する需要の本質を十分に理解することから始める。もちろんこれ以外にも、多くの重要な観点がある。
たとえば、プロダクト・ライフサイクル、需要の予測可能性、商品の多様性、そしてリードタイムやサービスについての業界標準(倉庫在庫によって賄われる需要の在庫に対する割合)などが考えられる。しかし、筆者の研究では、各商品についての需要のパターンを分析・分類してみると、実は2パターンのどちらかに該当することがわかった。それらは、基本的に「機能本位」であるか、「革新的」であるかのいずれかである。そしてそれらの需要パターンに応じて、それぞれまったく異なる種類のサプライチェーンが必要なのである。先に挙げた、サプライチェーンにまつわる多くの問題点の根本的な原因は、この商品の種類とサプライチェーンの類型とのミスマッチにあるのだ。
その商品は「機能的商品」か「革新的商品」か
需要予測を困難にする商品の革新性
機能的商品とは、たとえばステイプラーのように、スーパーやコンビニエンス・ストアなどさまざまな小売店で人々が購入するものを指す。このような商品に対する需要とは、時とともにあまり変化しない、ごく基本的なものである。したがって需要は安定しており、予測しやすく、ライフサイクルも長い場合が多い。しかし、その需要の安定性ゆえに競争は激しくなり、利益率は低いことが多い。その低い利益率を少しでも上げるために、各企業は斬新なデザインや新たな機能というイノベーションを展開し、自らの商品になんとか付加価値を付け、顧客に買ってもらおうとするのである。ファッション・アパレル業界や、コンピュータ業界はその典型例である。
しかし、ごく稀にではあるが、このような分野においても、目を見張るような商品開発の成功例がある。たとえば、ベン・アンド・ジェリーズ(Ben & Jerry's)、ミセス・フィールド(Mrs. Fields)、スターバックス・コーヒー(Starbucks Coffee)といった企業は、伝統的な機能的商品に当たる食品市場において、独自の味や、これまでになかったコンセプトによって、風穴を開けたよい例である。
そのほかにも、子供用車載シートの主要な製造メーカーであるセンチュリー(Century)社は、この機能的商品に大きな変化をもたらした。1990年代初頭まで、センチュリー社の商品といえば、機能的なものばかりであった。それを、鮮やかな色彩のさまざまな種類の布地を選べるようにし、さらにシートが衝突時に動いてショックを吸収し、腰掛けている子供を保護するような設計にした。これは「スマート・ムーブ」("Smart Move")と名づけられ、その設計があまりにも革新的であったがゆえに、衝突時に車内のシートは動いてはならないという政府の商品安全規格にひっかかり、規格が改正されるまで販売することができなかったほどである。
このように、イノベーションによって、企業はより高い利益率を確保することができる。しかし、同時にその新たな商品の革新性によって、企業は需要を予測しづらくなる。さらに、その商品のライフサイクルは、通常わずか数ヵ月と短い場合が多い。競合他社がその革新的な商品を模倣するため競争力はすぐに低下しやすく、企業はまた新たなイノベーションを模索し、導入し続けざるをえないのである。商品のライフサイクルが短いだけでなく、一般的にこの手の商品は多品種であるため、市場予測はさらに困難を極めることになる。



