全社で共通の情報システムを導入しようというERP(Enterprise Resource Planning=全社的な経営資源の計画活用)のアイデア自体は、素晴らしいの一言に尽きる。財務・会計情報、人事情報、調達情報、顧客情報など、社内にあふれているすべての情報をシームレスに統合できる、とうたったソフトウエア・パッケージがいくつも存在する。

 互換性のない情報システムと一貫性を欠いた現場の業務に莫大な経費を費やし、いらいらしながら格闘したことのあるマネジャーなら、業務統合問題が「既製品」の導入で解決できることに、確かに魅力を感じるだろう。

 だから、多くの企業が専門の会社を頼ってERPの導入を進めてきたとしても、何の不思議もない。

 こうした会社の最大手であるドイツのSAPの売上げは、1992年には5億ドル弱だったのが、1997年にはおよそ330億ドルにまで伸び、世界で最も早く成長したソフトウエア会社となった。バーン、オラクル、そしてピープル・ソフトといったSAPの競合会社のパッケージも、需要が急速に伸びている。

 世界中でERPの導入に企業が費やす経費は、いまや年に100億ドルに達すると見られている。これにコンサルタント料など関連経費を足すと、おそらくその倍の金額になるだろう。

 ここ何年か、インターネットの台頭がメディアの注目を独り占めしているかのようだが、1990年代の情報技術の法人利用における最も重要な展開は、実業界がERPを取り入れだしたことかもしれない。

 しかし、ERPは各企業の期待に応えているだろうか。導入プロジェクトが失敗した、あるいは手に負えなくなったといった困った話が増え、マネジャーたちは導入を躊躇しているというのが現状ではないだろうか。

 フォックスマイヤー・ドラッグは、破産に追い込まれたのはERPのせいだとしている。モービル・ヨーロッパは、何百万ドルもERPにつぎ込んだが、結局、合併相手に拒否されて破棄した。またデル・コンピュータでは、システムが新しい分権型の管理方式に合わなかった。アプライド・マテリアルズでは、あまりにも多くの組織変更が必要とされ、ERPの採用をあきらめてしまった。ダウ・ケミカルでは7年という時間と5億ドル近い経費をかけてメインフレーム方式のERPを導入したが、現在はクライアント・サーバ方式に切り替えるための作業を行っている。

 こんな崩壊を招く原因はいくつかあるが、ERPの全社的導入には大変な専門知識を要する、ということがまず挙げられる。つまり、これらのシステムはいくつかの非常に複雑なソフトウエアから構成されているため、インストールして使いこなせるようになるには、経費、時間、そして専門知識への莫大な投資が必要なのだ。

 しかし、いくら高度な専門知識が要求されるからといって、そのこと自体がERP導入の主な失敗要因であるとは言い難い。最大の問題は、むしろ業務上の問題であることが多い。企業は自社の業務上のニーズと、ERP上で要求される技術的な問題をうまく合致させることができないでいる。