産業の利益の源泉と配分状況を十分理解しないまま戦略立案に携わっているのが、多くのマネジャーの実態である。しばしば、売上げの伸びはいずれ利益に反映されるとの仮定の下、利益ではなく売上げに目を向けてしまう。産業の各分野の収益性の違いを分析するために必要なデータも、手法も持ち合わせていないこともある。理由はどうあれ、利益に対する不十分な理解は、企業の戦略ビジョンに弱点を生む。その結果、またとない増益チャンスを逃したり、利益率が低い、あるいは先細りの分野に足を踏み入れてしまうといった失敗が待ち受けている。

 本稿では、産業のバリューチェーンの利益をアクティビティ(事業分野)に着目して分析するための、有効なフレームワークを紹介する。

 こうした分析は産業の利益構造(我々はこれを「プロフィット・プール」と呼ぶ)の理解を助け、巨額の利益を生む分野、利幅が薄い分野の特定を可能にする。さらに重要なのは、プロフィット・プールの分析が産業の基本構造を明らかにし、利益額を決定づける経済的あるいは競争上の要因を知る手がかりとなる点である。このように「プロフィット・プール」は、戦略的思考の土台としての役割を果たす(「事業再構築への収益構造分析:プロフィット・プール」参照)。

「プロフィット・プール」のマッピングは、バリューチェーン上の各アクティビティを定義し、それぞれの利益額と収益性を求めるというシンプルな作業である。

 しかし、目標に至る道は必ずしも平坦ではない。そもそも、アクティビティごとの内訳がわかる形で財務データが入手できることは稀である。企業の詳細な財務データを入手しても、複数の事業分野のデータが混在しているケースが多い。

 また、商品・サービス、顧客、販売チャネルごとのデータが揃っていたとしても、それらはバリューチェーンの各アクティビティと一対一で対応するわけではない。集めたデータをもとにバリューチェーン・アクティビティごとの利益と収益性を推定するには、多大な工夫と知恵が必要となる。

 プロフィット・プールのマッピングには決まりきった方法があるわけではないが、必要作業、解決すべき問題、収集データ、分析内容を網羅する標準的なプロセスの紹介は可能である。

マッピングのプロセス

 プロフィット・プールのマッピングは、(1)対象領域の特定、(2)プロフィット・プール全体の規模の推定、(3)バリューチェーン・アクティビティごとの利益の推定、(4)推定結果の検証という4つのステップから構成される(表1「プロフィット・プールのマッピング」参照)。