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人口減少や大規模災害、都市と地方の格差など、日本社会が抱える課題は複雑さを増している。こうした中、地域に根差したメディアは、その役割の再定義を迫られている。長年メディア研究に携わってきた村上圭子氏と、dentsu Japan グロースオフィサーの須賀久彌氏が、「地域とメディアの可能性」をテーマに対談した。地域メディアが向き合うべき「公共性」と「経済性」の両立から、地域課題を解決するソリューションプロバイダーとしての可能性まで、両者の視点が交錯する。
経済循環の促進が地域の「公共性」を支える
須賀 村上さんはNHKで報道番組のディレクターをされた後、NHK放送文化研究所で地域メディアの研究に取り組んでおられました。これまでも、地域メディアについていろいろと情報交換させていただいてきました。
村上 私は当初から地域メディアを専門にしていたわけではなく、NHKの地域放送局の役割を考える必要に迫られたのが、研究のきっかけです。私は、NHKは民間のメディアができないこと、つまり“引き算の公共性”を考えることが大事だと思っており、そのために地域の民間メディアの営みを学んできました。特に民放ローカル局から学んだのは、経済循環の促進が地域を豊かにし、そこに住む人たちの暮らしや誇り、尊厳を確保していくことにつながるということでした。
かつては公共性をもっと狭く捉えていたのですが、いまは「公共性と収益性を両立させる」、あるいはその2つを掛け合わせることが、地域メディアの持続可能性を高める最大のカギだと考えています。広告収入に加えて、地域活性化や課題解決のための公的財源なども活用しながら、地域メディアが社会的企業としてしっかり収益を上げていくこと。いまは、そこに最も関心があります。
須賀 経済を循環させることで、救えるものは非常に多いということですね。メディアの構造で言えば、米国はほぼ商業メディアだけで回っていて、公共放送の存在感は非常に小さい。逆に欧州は受信料の徴収率が高く、英国BBCをはじめとして各国とも公共放送の存在感が非常に大きい。
日本では、放送法第1条に「健全な民主主義の発達に資するようにすること」と明記されており、民放もNHKも同じ法律に規定されています。NHKと民放の二元体制があったからこそ、米国型でも欧州型でもない、独自の総合編成が日本で守られてきた側面があります。