正しい方向に最適な量でマネジメントへのエネルギーは注がれているか

 素晴らしい経営戦略を実行してみたが、どうもうまくいかなかったという話の一つや二つは、どんな経営者にもあるものだ。全員がその戦略を支持したにもかかわらず、なぜか実行されなかったという話。あるいは一応実行されたとしても、結果はさんざんだったという話。こういう話の結末は、たいてい同じである。イライラが募ったり、ビジネスチャンスを失ったり、ときには危機的状況に陥ったり、混乱の極みに至ってしまうこともある。

 なぜなのだろうか。多くの経営者が首を傾げる。十分に分析されたし、実行可能とも判断され、最も理にかなった戦略だと思われていたのに……。たとえコンセプトはよかったとしても、実現するとなると、なかなか難しいことが多い。

 実はその原因は、経営者自身にある。とりわけ、経営者が自らのエネルギーをどこに注いでいるか、にあるのだ。マネジメントに注がれるエネルギーは、組織内で最も重要かつ最も不足している資源といえる。ことに、昨今のように無限にビジネスチャンスが存在する時代においては、特にそうである。新しいチャンスは、毎月どんどん現れる。貿易障壁が取り除かれ、新たな市場が出現し、新しいテクノロジーの世界が次々と広がっていく。そのすべてが経営者の時間を奪い、注意をそらし、彼らの予定表をどんどん埋めていってしまうのである。

 しかし、どんなに素晴らしい戦略も、次のような場合にはその効果を失いかねない。あまりにさまざまなビジネスチャンスがあるために、マネジメントに注がれるエネルギーが拡散してしまったり、間違った方向に向けられてしまったりする場合だ。この場合、その戦略を適切に実行することはできにくい。また、そうすることにより価値を創造していく可能性は低くなってしまうのである。

 こうしたシンプルな事実から、次のようなことが導かれる。今日のビジネスを進めていくうえで、経営者には、絶対おろそかにできない重要な任務がある。それは、経営者が正しいプロジェクトや問題に、確実にエネルギーを傾けられるようにすることだ。

 たしかに理論的には、十分に筋が通っている戦略があるとしよう。しかし、企業が急激な負担を強いられる昨今の厳しい競争環境下では、自分自身を、また自社を、その戦略一筋に集中させることほど難しいことはない。

 では、いったいどうすればよいのだろうか?

経営者の時間と関心を最大限に活用するための新しい指標ROM

 そこで経営者に勧めたいのが、新しい経営指標の利用だ。我々はそれを「マネジメント投下利益率(Return On Management=ROM)」と呼ぶ。そしてそれは、次のような方程式で表される。

ROM=消費された生産的な組織エネルギー/マネジメントに投資された時間と関心

 ROMとは、従兄弟ともいえるようなROE【*】(株主資本利益率)やROA【*】(総資産利益率)といった指標と同じく、この場合には不足しがちな資源である経営者の時間と関心を投資して得られる見返り、すなわちリターンを測るものである。言い換えれば、資源を最大限に活用するために、経営者が数あるマネジメント活動の中から、いかに上手な選択を行ったかを示すものである。その日あなたが戦略の実行に投資した時間、そして時間に対するリターンは、最大限のものだろうか? ROMは、この質問に答えてくれる貴重な指標なのである。

 まずは順序立てて説明しよう。