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ハイテク企業14社の開発プロジェクト調査
次世代製品とその派生製品の創造は、技術を基盤とする企業にとっては日常的な活動に思える。が、彼らの事業の絶えざる成功は、、結局のところ、それにかかっている。
にもかかわらず、最先端のハイテク企業14社による28件の次世代製品開発プロジェクトを筆者たちが詳細に研究したところ、大部分の企業はこれらのプロジェクトをスケジュールどおりに完了できなかったことが明らかになった。さらに彼らは、派生製品の開発で問題を抱えていた。次世代製品は、市場における既存製品との間にギャップをつくる。そのギャップを埋めるために派生製品が必要になるのである。
筆者たちが研究対象とした企業――年間売上げ5億~100億ドルの規模――のうち、スケジュール、製品仕様、それに市場シェアの点で、開発者の期待どおり次世代製品を成功させた企業はわずか4社にすぎなかった。別の5社の次世代製品は、外部から見ると成功したように見えたが、社内の目標や市場シェアの期待は満たせなかった。残る5社の新製品は、完全に失敗に終わった。筆者たちはまた、遅延やトラブルが発生したケースでは例外な.く、その企業の製品開発プロセスのうち製品定義の段階、つまりその企業が特定の製品のデザインに具体的に着手する前の段階に、その発端があることを発見した。
次世代製品はまた、すべての新たな派生製品を生み出す源泉となり、かつそれらをサボートする役割が期待されるため、プラットフォーム製品ともいわれる。その次世代製品(プラットフォーム製品)には、資源の大規模な投入が必要とされる。ボルボ社の製品ラインに5気筒・前輪駆動乗用車を導入した850や、ボーイング社の737航空機ラインの航続距離と性能を大幅に改善した777のように、プラットフォーム製品は、その前の世代の製品に比べて性能とコストの点で格段の改善をもたらす。それは将来の顧客のニーズに応じると同時に、現在の顧客を旧製品から移行させるための道となる[注1]。
コンサルティング業界および学界の専門家から成る委員会が、筆者たちが調査すべき14の企業を選定した。匿名性を保証することによって、筆者たちは、これらの企業の最も微妙な社内情報に接近し、あらゆるレベルの人々に率直な面接調査を行うことができた。たとえば筆者たちは、事業および製品定義のプラン、チーム・ミーティングの議事録、製品開発プロセスあるいはプロジェクト終了後の評価などに関する情報を実際に入手した。
これらの企業のうち、製品開発に熟達した少数の企業と残りの企業とを隔てているものはいったい何か。自社の目標を達成できなかった9社の失敗の理由はさまざまであったが、成功した企業にはいずれも共通する理由があった。この結果、筆者たちは、後者のグループの行動から、企業の製品開発プロセスにおける定義段階、すなわち〝ファジーな最前線(fuzzy front den)〟に具体的な改善をもたらす最善の手法を導き出すことができた。
筆者たちは、新製品の定義を迅速に成功させる魔法の法則を発見したわけではない。新しいプラットフォーム製品は、将来の顧客のニーズを対象として開発されるものなので、企業は、まだ立証されていない新しい技術やアーキテクチャに取り組むという大きなリスクを負うことになる。加えてハイテク企業は、産業自体が変転きわまりない性格のために、市場が時間の経過とともにどのように変貌するかを予測することが難しい。不確実性は、一つの組織の中でのグループ間の対立とマネージャーの優柔不断を助長する。そして結果的には製品開発を混乱に導く要因となる。
筆者たちが研究した成功企業は、いずれも技術と市場の不確実性にどう対処するかを身につけていた。言い換えれば、彼らはその製品定義プロセスにおける混沌状態をいかに克服するかを学んでいたのである。そして、成功した複数の企業はほとんど同じ技法を用いているにもかかわらず、その技法を他の成功企業とはまったく無関係に編み出していたのである。筆者たちはこれらの技法を、製品戦略、プロジェクト組織、および定義段階における実行手法の3つのカテゴリーに分類した[注2]。これらのカテゴリーは、プラットフォーム製品を定義するうえでの企業のニーズのすべてを包含するものではない。むしろこのカテゴリーは、筆者たちが最善と考えた実行方法をグルーピングして考察するための、有効な方法を示すものである。
製品戦略
筆者たちは、製品開発のこの3つの最善の手法を、製品戦略における最重要項目として位置づけた。第1に、その企業の今後2年間の製品の方向性を示す明確なマップを作成、し、それをその企業の開発活動のあらゆる局面に用いることである。第2に、切れ目のない製品戦略を構築すること、つまり競争の段階でまったく市場にギャップがないようにしておくことである。第3に、市場に関する優れた情報を収集し、評価し、吸収することである。
企業の新製品の方向性を示すマップを作成し、活用する
ほとんどの企業では、自社のビジョンを明確化するために、何らかの形の戦略プラニング・プロセスを持っている。そして、これを実現するために必要な製品開発活動のマップを作成している。このマップは、その企業がその後2年間にわたって開発に取り組むプラットフォーム製品やその派生製品をも含めて、製品ラインの方向性を定義するものである。マップの主たる価値は、彼らが想定している未来をいくぶんかでも確実なものにすることにあるのではない。事実、このマップは頻繁に改訂される。マップの価値は、むしろ、急速な市場変化と技術進歩を特徴とする不確実な環境の中で、企業がプラットフォーム製品のための新しいプロジェクトに関して決定を下すのを助けることにある。



