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◆インテルが創るリズム
インテル社(以下インテル)の共同創立者ゴードン・ムーアは、すでに1965年、マイクロプロセッサ・コンピュータ・チップの生産能力が1年半ごとに2倍になると予言していた。以後、これは、「ムーアの法則」と呼ばれることになる。物理の法則のように聞こえるかもしれないが、そうではない。インテルのエンジニアやマネジャーが心に留めてきたビジネス目標なのである。やがて、インテルは新製品を導入する一定のサイクルをつくり、それが業界をぐいぐい引っ張るペースとなってきた。87年から97年までの10年間に、インテルは年間44%という驚異的な年間ベースの平均投資家利回りを生み出した。さらに驚かされるのが、最近の年間収益額だ。その額は、パソコン・メーカートップ・テンの年間収益額合計に匹敵するまでになっているのである。
市場でインテルのような地位を享受できる企業は数少ないかもしれないが、この世界第1位のチップ・メーカーからマネジャーは重要な教訓を学び取ることができる。インテルは、タイム・ペーシング(事が起こる前にスケジュールによって対応する戦略)を実践している、最も注目に値する企業である。ただし、唯一の企業ではない。
タイム・ペーシングは、急速に変化する予測のつかない市場で、先見的な間隔で組まれるスケジュールによって、競争していく戦略である。インテルは、新製品の導入を通じて、ムーアの法則を現実のものとしているだけでなく、重要な他の分野でもタイム・ペーシングを実践している。
たとえば、およそ9カ月ごとに、新しい製造施設を増設している。CEOのアンドリュー・グローブは次のように語る。
「当社では、その工場が必要となる事態の2年前から、先を見越して建設を始める。まだ、そこで作るべき製品もなく、業界が伸びるかどうかわからないうちからである」
このように先見的に能力を拡充することで、ライバルがそのビジネスに参入するのを躊躇させ、万一、自社で需要に応じられない場合でも、ライバルが足掛かりをつくるのを封じている。
中小企業も大企業も、ハイテク企業もローテク企業も、特に絶え間なく変転する市場では、タイム・ペーシングの利点を享受できる。シスコ・システムズ、エマーソン・エレクトリック、ジレット、ネットスケープ、SAP、ソニー、スターバックス、3M、これら企業のいずれもが、何らかの形でタイム・ペーシングを利用している。タイム・ペーシングは、インテルのように、急速に移り変わる業界のマネジャーが変化を見越して、変革のペースをつくるのに役立つのである。
しかし、変化がそれほど加速的ではない業界であっても、タイム・ペーシングを利用することによって、長く待ちすぎたり、動きが遅すぎたり、タイミングを逃したりしがちな傾向を防ぐことができる。
我々がタイム・ペーシングの利点を理解したのは、ほぼ10年前に、変化のスピードが速く、競争の激しい業界で成功した企業の研究をしたことがきっかけである。研究調査のある段階で、我々はコンピュータ業界の異なる分野で成功を収めた12社の調査を行った。コンピュータ業界は、こうした新しい競争が現実に展開されている典型例である。他業界の、同じような考え方との関連についても、ターゲットを絞ったケース・スタディや経営者へのコンサルティング活動を通じて調査した。その結果わかったことは、変化の激しいビジネス環境と取り組むとき、タイム・ペーシングは成功に欠かせないもので、どのくらいの頻度で変革すべきかというジレンマを解決するのに役立つ、ということである。
タイム・ペーシングとイベント・ペーシングの比較
イベント・ペーシング(何かに反応してから行動する戦略)は、多くのマネジャーにとっておなじみの、自然な物事の秩序である。競合他社の動き、科学技術の変化、財務業績の不振、顧客の新規需要といった出来事に応じて、企業が変革を行うことである。



