利益に直結する戦略の基本は、差別化、つまり同業他社にはないが顧客がその価値を認めるものを提供することである。

 しかし、差別化を図ろうとする会社の十中八九は、自社の製品やサービスのことしか眼中にない。実際には顧客が製品やサービスを必要とする時点から、それが不要になって処分しようとするまでの間、企業には常に差別化のチャンスが与えられている。

 筆者らが思うに、製品・サービスに関する顧客の利用経験すべて――筆者らはこれを消費連鎖(consumption chain)という――に企業が創造的思考の目を向ければ、それまで自社も他社も不可能と思っていた方法で、自社の製品やサービスの新たな市場を確保できるチャンスに恵まれるはずである。

 ろうそくメーカーのブリス・インダストリーズ社の例を紹介しよう。このアメリカの会社は徹底した製品の差別化を行った結果、年間売上高200万ドルの宗教儀式用ろうそくのローカル・メーカーから、売上高5億ドルの各種ろうそく製品やアクセサリーを扱うグローバル・メーカーに変身し、会社の株式価値は12億ドルとなった。

 CEOのロバート B. ゲーゲンが言うとおり、「300年間マイナス成長を続けた」業界の企業としては予想外の成果である。ブリス社の話は、ひとことで言えば戦略的差別化の威力の証明である。

 ビジネスの歴史をひもとけば、壮大なアイデアの下に挫折し、その後それで成功した企業の礎になった起業家の物語は枚挙にいとまがない。

 しかし、企業を差別化する方法の発見には天才の助けも直観力も必要ない。それは開発、育成の可能なスキルである。筆者らが開発した2段階アプローチは、差別化の着眼点を明確にして、有効な差別化戦略を策定する能力を開発する支援ツールである。

 第1段階は「消費連鎖の図解化」で、顧客の製品やサービスの利用経験全体を把握する。第2段階は「顧客の利用経験の詳細調査」で、消費連鎖の各段階についてブレーンストーミングを行い、どんなモノやサービスであっても、無数の差別化方法をうまく導き出すことができる。

消費連鎖のマッピング

 前述のとおり、戦略的差別化への第一歩は、自社の製品やサービスの利用経験を図解化することである。この作業は、重要な顧客セグメントごとに行うことが望ましい。

 まず社内のあらゆる分野の担当者を集めて、いくつかのグループを編成する。特にマーケティング・データを扱う担当者か、顧客と直接もしくは電話で接触する担当者がよい。各グループの課題は、主要な市場セグメントごとに、顧客が自社製品の存在を知ったときから処分するまで(または使わなくなるまで)の間の過程をすべて明らかにすることである。