19世紀においては、鉄道がビジネスの競争領域を根底から変貌させた。鉄道は、高速かつ安価な輸送手段を提供することにより、それまで保護されてきた地域企業を、遠隔地のライバル企業との戦闘の場に否応なく引きずり込むことになった。鉄道会社はまた、自らの業界の複雑性と高い固定コストに対処するための経営手法を案出し、これが世紀の変わり目に起こった産業革命の第2の波に多大な影響を与えた。

 今日ではコンピュータ産業が同様の主導的地位を占めている。コンピュータ会社は、安価かつ高速の情報処理手段を提供することによって広範囲に市場を変容させただけでなく、こうした処理能力を最適に活用できる新しい産業構造への道をリードしている。

 その注目すべき進歩の中核にあるのがモジュール化、すなわち、それぞれは独立して設計でき、しかも全体としては統一的に機能する小規模なサブシステムを用いて、複雑な製品やプロセスを構築することである。コンピュータ産業では、このモジュール設計を広範囲に適用することによって、イノベーションのペースを劇的に引き上げた。

 事実、コンピュータ産業の経営幹部たちが現在直面している加速度的な変化をもたらしたのは、高速処理や通信などの技術ではなく、このモジュール化なのである。そしてこの変化に対応する最善の道も、モジュール化に基づく戦略なのである。

 多くの産業では長年にわたって、その生産プロセスにある程度のモジュール化が存在していた。しかしいまや同様のモジュール化を設計段階にまで拡大しようとする産業が増加しつつある。モジュール化をコンピュータ産業に匹敵するレベルにまでもっていくのはなかなか難しいだろうが、多くの産業の経営幹部たちは、この新しいアプローチの導入について、コンピュータ産業の同輩たちの経験から学ぼうとする姿勢を見せている。

複雑化に対する解決策

 一般誌やビジネス誌は、コンピュータ技術の恐るべきパワーを大いに喧伝してきた。記憶容量や処理速度が急上昇する一方、コストは横ばい、ないしはむしろ低下してきた。こうした進歩は、製品の複雑性が著しく増してきたことによる。現代のコンピュータは、調和のとれた形で機能し、しかもその精度と緻密さが急速に進化している、驚くべき大量の要素の集合体なのである。

 モジュール化は、複雑化が進む技術を企業が扱うことを可能にしてきた。製品をサブシステム、すなわちモジュールに分解することにより、設計者、製造者、そしてユーザーは大幅な複雑性を手にしている。異なる企業がそれぞれ別々のモジュールを担当しながら、その集合的な努力から信頼できる製品が生み出されると確信できる。

 IBMが1964年に発表した最初のモジュール・コンピュータであるシステム/360は、このアプローチを如実に示している。IBMや他のメインフレーム・メーカーのそれまでのモデルは、それぞれ独自で共通性がなく、各モデルは独自のオペレーティング・システム(OS)、プロセッサ、周辺機器、あるいはアプリケーション・ソフトを持っていた。メーカーが、改良された技術の利点を取り入れて新しいコンピュータ・システムを導入するたびに、そのためのソフトウエアやコンポーネントを特別に開発し、しかも旧システムに対応したものも依然として維持しなければならなかった。

 エンドユーザーは、新しいマシンに移行するときには、それまでのプログラムをすべて書き直し、しかもソフトウエアの変換に欠陥があれば、かけがえのない重要なデータを喪失するリスクを覚悟しなければらなかった。この結果、多くの顧客は新しい機器のリースや購入に消極的であった。