どこかおかしいニュー・エコノミー論

 経済学者のほとんどは、アメリカ経済は現在、雇用と稼働率の両面において維持可能な最高水準に近い、あるいはそれを上回っているかもしれないと見ている。

 この見方が正しければ、これ以上の成長率を望むためには、生産性つまり労働者1人当たりの生産高、または潜在的な労働力を増やすことが必要である。

 しかし、政府統計によれば、生産性、労働力ともに伸び悩んでいる。標準的な経済分析に従えば、今後数年間、アメリカは2%程度の成長率しか期待できないことになる。

 さらに、もし成長率を高めようとして連邦準備銀行(以下、連銀)が低金利を維持すれば、結果は深刻なインフレを招くという、過去の失敗を繰り返すこともわかっている。

 しかし、影響力を持つ多くの人々、つまりビジネス界のリーダーやジャーナリスト、そして何人かの著名な経済学者までもが、このようなパっとしない分析を受け入れようとはしない。しかも2%程度の成長がアメリカの潜在成長率であるという定説は覆されたと信じるようになってきた。おそらく、潜在成長率に限界があるという説は時代遅れになっていると考えているのだろう。

 彼らの楽観主義に基づく経済観は「ニュー・エコノミー」、あるいはもっと仰々しく「ニュー・パラダイム」と呼ばれている。名称は何であれ、この新しい経済観は経済学説には珍しく急速に広まっている。これほど早く新しい経済観が多くのオピニオン・リーダーの間で定説となったのは、1970年代のサプライ・サイド経済学以来である。

 ニュー・パラダイムのポイントは、アメリカ経済で目に見えて起こっている変化、すなわちデジタル技術の台頭や国際貿易、投資の増加などによって、経済ゲームのルールが本質的に変わったという主張にある。

 また、ニュー・パラダイムは、急激な技術革新によって経済はこれまでよりはるかに早く成長することができ、かつグローバル競争があれば、経済が過熱しても、高いインフレを起こすことはないと主張する。

 この経済観は、これまで経済学者が示してきた2%程度の低い成長率よりも高い成長率を期待する者にとって、魅力的であることは明らかである。

 多くのビジネスマンも、この経済観が自分たちの産業で起こっていることと一致していると主張している。とすれば、この経済観がビジネス界で人気を博していることに何も驚く必要はないのかもしれない。