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命を長らえるためにジャック・プリッチャードは彼の生活習慣を変えなければならなかった。心臓外科医は3回のバイパス手術と薬で彼を助けることができると言ったが、自分の生活習慣存変える責任からプリッチャードを解き放してくれる技術的処置はなかった。彼は煙草をやめ、ダイエットをし、運動をして、リラックスする時間をつくり、そしていつも深くゆっくりと呼吸するよう気をつけなくてはならなかった。医者はプリッチャードを支える専門枝術を提供して彼をサポートすることはできるが、長期的な健康改善のために深く染み込んだ習慣の数々を変えるよう自分を適応させていくことは、プリッチャード自身にしかできないことなのだ。医者は患者が行動様式を変えるよう動機づける、というリーダーシップの役割を担っていた。ジャック・プリッチャードは、日常生活の中でどういう変化をどんなふうに行うか見つけ出し、自分が適応していくという挑戦に向き合っていた。
今日の企業は、プリッチャードと彼の医者が向き合ったのと同じような挑戦に直面している。企業はいま、「適応への挑戦」に直面している。地球上の社会、市場、顧客、競合企業、そして技術の変化により、組織はその価値を明確にし、新しい戦略を切り開き、新しい運営方法を学習することが求められている。変化を引き起こすうえでリーダーがしばしば直面する困難な任務は、組織の全員が新しい仕事への適応に向かった行動をするよう動機づけることである。
我々の深い信念に変化が求められるとき、かつての成功を導いた価値観が以前ほど適切ではなくなってきたとき、そして合法的でかつ競争優位な展望が現れたとき、それらに対して適応していくことが必要となる。我々は、会社がリストラやリエンジニアリンゲを行うとき、戦略を創造し実行するとき、あるいはビジネスを買収するとき等々、毎日、職場のいろいろなレベルにおいて適応への挑戦を見ることができる。組織の中でマーケティングがうまく機能していないとき、機能横断チームがうまくいかないとき、あるいは上級幹部社員が「我々はあまり効率的に動いていない」と不満を述べるときなど、さまざまなときに、適応への挑戦に直面する。新しい問題への適応は往々にして答えの見えない制度的問題なのである。
新しいビジネス環境で生き残るために、行動様式を変化に適応させていくよう組織を動機づけることは、非常に重要なことである。今日そういう変化を避けていてはどんな会社も衰退してしまう。社員を新しい仕事への適応に向き合わせることは、競争社会におけるリーダーシップの真の目標である。しかしほとんどの上級幹部社員たちはいまだに、リーダーシップを発揮することと、ただ単に権威のある専門的知識を提供することが決定的に異なるものだという認識を持ってはいない。それはなぜか? それには2つの理由があると思われる。
まず第1に、彼ら自身が長期間にわたり実行してきたような、変化を起こすための解決策を自らが提供する形でリーダーシップを発揮するという行動パターンを、崩さなくてはならないからである。
上級幹部社員たちの多くが自らのコンピタンスをもとに責任を取り、そして問題解決をすることでいまの地位に上ってきたことを考えれば、それはきわめて自然なことだ。しかし会社が適応への挑戦に直面しているときの問題解決の責任は、上級幹部社員だけではなく社員たちへも広がっていかなければならない。適応への挑戦に立ち向かうには、上級幹部社員に限らず社員相互で資源を使い合う必要があり、組織や階層の枠組みを越え、問題解決のためにお互いが学び合い、すべての階層に存在する社員全体の知性の集合体こそが必要となるのである。
第2に、適応するための変化は、それを遂行する人々に苦痛を与えるものだからである。人々は新しい役割を演じなくてはならず、新しい関係、新しい価値観、新しい行動様式、そして新しい仕事へのアプローチを求められる。
社員の多くは、要求される努力や犠牲に対して相反する盛情を持つ。また社員たちは、自分たちの肩から問題を取り除いてくれることを上級幹部社員に対してしばしば期待するが、こういう期待を持たせてはいけない。リーダーは、答えを与えてほしいという彼らの期待を満たすのではなく、彼らに厳しい質問を投げかけなくてはならないのだ。リーダーは、外部の脅威から人々を守るのではなく、現実における危機を感じさせ、彼らが適応できるような刺激を受けるようにしなくてはいけない。リーダーは、現在の役割に人々を順応させるのではなく、彼ら自身が新しい関係を発展させていくことができるように仕向けなくてはならない。リーダーは、争いを抑えるかわりに問題が何かを引き出さなくてはならない。リーダーは、標準状態を維持するのに努めるのではなく、現状の「ビジネスのやり方」に挑戦しつつ、歴史的慣行から継承すべき普遍の価値を人々が識別できるよう、手助けしなくてはならない。
新しい仕事への適応をリードする6つの法則を、世界各地のマネジャーとの経験をもとに、我々は以下のように導き出した。
「バルコニーに上り」、適応への挑戦を見極めて明らかにし、メンバーの苦痛・苦悩を調整しつつ、鍛練された注意力を持ち続け、仕事の責任を人々のもとへ戻す。そして組織の中から生まれてくるリーダーシップの声を守り育てることである。プロフェッショナルサービス会社のKPMGオランダ社における変化のための適応の例をもとに、これらの法則を明らかにしていきたい。



