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アメリカ企業の最高経営責任者(CEO)たちは、平均して5年ごとに半数の顧客を失っている。だれもが驚く事実だが、CEOはなおさらショックを受ける。なぜならば彼らの多くは、顧客の離反を測定したり、防止策を講じたり、経営改善の指針として活用したりしたことがないので、顧客離反への対処法はおろか、その原因さえ理解していないからだ。しかし、顧客離反は、経営上最も明快な指標の一つである。まず、顧客離反は、企業が提供する価値が低劣になっていることを、きわめて鮮明に示す。第2に、増加する顧客離反は、顧客から企業へのキャッシュフローの減少を予告する確実な前兆となる。失った顧客を新規の顧客で補充したとしても、収益減少は免れない。新規に顧客を獲得するには経費がかかるし、既得の顧客のほうがより多くのキャッシュフローと利益をもたらす傾向があるからだ。学習する意欲と能力のある企業は、顧客離反の原因を究明することで、改善の余地がある業務を確認し、ときには失った顧客を取り戻し、以前より緊密な関係を結ぶことができる。
ところで、失った顧客からそれほど有用な情報が得られるのに、なぜ企業は顧客の離反から学習しようとさえしないのだろう? 顧客ロイヤルティと顧客の離反、そしてキャッシュフローと収益に及ぼすその影響を10年間研究した結果、筆者は7項目の要因を解明した。
□多くの企業は、顧客ロイヤルティとキャッシュフローおよび収益の緊密かつ変則的な関係を理解していないので、顧客の離反に対して、実際に危機感を抱かず、抱いたとしても時機を失っている。
□あまり綿密に失敗を究明するのは愉快なことではないし、企業によっては、失敗を分析しようとすると、自分の立場が危うくなることさえある。
□顧客離反は多くの場合、確認することが困難である。
□顧客そのものを確認することが難しい場合もあり、ことに努力してでも保持する価値のある顧客を明確に知ることは容易ではない。
□顧客離反の真の原因を明らかにし、適切な教訓を引き出すことはきわめて困難である。
□適切な社員にそうした教訓を学ばせ、それを活かさせることは簡単ではない。
□顧客離反の分析結果を現行の戦略的経営システムに取り込むための、経営幹部が直接監督して状況の変化に迅速に対応しうる機構を案出し、設立することが困難である。
顧客ロイヤルティと収益
一般に、顧客との取引期間が長ければ長いほど、顧客価値は高まる。長期の顧客は、購買額が大きく、対応に時間がかからず、比較的価格にこだわらず、新規の顧客を紹介してくれる。何よりも、獲得費用といった初期コストが不要である。長期にわたって忠実な顧客はきわめて価値が高く、業績によっては顧客離反をわずか5ポイント、たとえば年当たり15%から10%に減らしただけで、収益を倍増させることができる。



