Ⅰ.業務の効率化は戦略ではない

 もう20年近くの間、経営者は一連の新しい競争のやり方とはどんなものか、学んできた。競争と市場の変化にただちに対応するには、企業はフレキシブルでなければならない。ベスト・プラクティス【*】を達成するには、ベンチマーキング【*】を続けなければならない。能率を上げるには積極的にアウトソーシング【*】をしなければならない。そしてライバルの先を行くには、二、三のコア・コンピタンス【*】を育てなければならない。

 かっては戦略の核心であったポジショニングは、今日のダイナミックな市場と、変化を続ける技術に対処するには、固定的で発展性がないと受け入れられなくなった。新しい教えによれば、ライバルはどんな市場ポジションもすぐに真似ることができるし、競争優位はせいぜい束の間のものにすぎない、ということになる。

 しかしこうした信念は危険な半面の真理でしかない。そしてますます多くの企業を共倒れ競争に至る道に引きずり込んでいる。規制が緩和され、市場がグローバル化するに伴って、競争の障壁が一部崩れつつあるのは事実である。また、企業が適切にエネルギーを注ぎ込んで、贅肉のないリーンな姿に変わり、動きがいっそう素早くなったのも事実である。しかし一部の人たちが多くの産業で「超競争」と呼んでいるものは、自業自得の結果であって、変化する競争パラダイムが生み出した必然の産物ではない。

 この問題の根源は、業務の効率化と戦略の区別がつけられていないことにある。生産性や品質、スピードを追い求めて、おびただしい数のマネジメント・ツールや技法が生み出された。TQM【*】、ベンチマーキング、タイムベース競争、アウトソーシング、パートナーづくり、リエンジニアリング【*】、変革のマネジメントなどである。その結果得られた業務改善がドラマチックであったことも多かったが、多くの企業が不満を感じているのは、こうした成果を永続する収益力に転換する力に欠けていたことである。そして徐々に、だれも気づかない間に、マネジメント・ツールは戦略の座を奪ってしまったのだ。経営者は、あらゆる面での改善を推進すればするほど、生き残りの競争力を備えたポジションからますます遠のいていく。

業務の効率化は必要、しかしそれのみでは不十分

 業務の効率化も戦略も、あらゆる企業の終極の基本目標である優れた業績の達成には不可欠である。しかしこの2つの役割には大きな違いがある。

 ライバルに業績で勝つことができるのは、長く持続できる何らかの違いを築き上げられる場合に限られる。顧客に、他社に勝る大きな価値を提供するか、他社に匹敵する価値を安いコストで創り出すか、あるいはその両方を実現しなければならない。そうすれば、あとは計算どおりに優れた業績が得られる。大きな価値を提供すれば、平均単価を高められるし、効率を高めれば、その結果平均単位コストは安くなる。

 企業間におけるコストや価格のあらゆる違いは、結局は製品やサービスを創造し、生産し、販売し、配送する何百という業務活動、たとえば顧客訪問、最終製品の組み立て、従業員教育などから得られるものである。コストは活動の遂行から生まれる。それゆえコスト優位は、競争相手よりも個々の活動を効率よく遂行すれば生じる。同じように差別化は、業務活動の選び方とその遂行方法の両面から生じる。このように業務活動は競争優位の基本単位なのだ。全体としての企業の優位や劣位はその企業の業務活動全体の結果であって、ごく一部の業務活動だけの結果ではない(注1)。

 業務の効率化とは、同様の業務活動をライバルよりもうまく遂行することである。業務の効率化には能率が含まれるが、それだけに限られているわけではない。たとえば製品の欠陥を減らすとか、他社より優れた製品を素早く開発するといった、企業がそのインプットをうまく利用する数々の実践方法を指している。戦略的ポジショニングはこれとは違い、ライバルとは違う活動を行うとか、同様の活動を違う方法で行うことである。

 企業間の業務効率の違いはごくありふれたことだ。一部の企業は他の企業に比べてそのインプットからより多くの成果を得ているが、その理由は無駄な努力を省いたり、進歩した技術を採用したり、従業員の動機づけがうまかったり、あるいは何か特定の業務活動か、業務活動の組み合わせ方の管理に、優れた洞察を行っているからである。こうした業務効率の差が競争企業間の収益性の違いの重要な源泉になっている。相対的なコスト・ポジションも差別化の程度も、直接その影響を受けているからだ。