「あんたが被害妄想だからって安心はできんぞ。本当に追っかけられないとも限らないんだから」というジョークが昔あった。プライベート・ブランドの攻勢に対するナショナル・ブランド・メーカーの対応は、一言でいってこんな感じである。メーカーが心配するのも無理はない。市場にはかつてない量のプライベート・ブランド、ストア・ブランド商品が出回っている。アメリカのスーパーマーケットで扱われている250カテゴリーのうち、プライベート・ブランド全体で、トップ・ナショナル・ブランドのシェアを個数ベースで上回るという現象が起きているカテゴリーが77にものぼる。プライベート・ブランド全体の売上げが、2位、3位のブランドに相当する品目となると100カテゴリーに及ぶ。しかし2つの重要な問題をうやむやにしたまま、多くのメーカーがプライベート・ブランドの脅威に過剰反応しているのも事実だ。

 第1に、プライベート・ブランドの力は経済情勢によって変わるのが普通である。すなわち景気が悪ければプライベート・ブランドのマーケット・シェアは一般に伸び、景気がよくなれば落ち込む。過去20年間で見ると、プライベコト・ブランドのシェアは、平均してスーパーマーケットの売上金額の14%というところだ。景気が底をついた1981年から82年にかけて、売上げの17%を占めたのがプライベート・ブランドのピークで、メディアが大騒ぎをした94年は、14.8%でピーク時よりは2%以上低い状態だったことがわかる。

 第2に、プライベート・ブランドの挑戦をナショナル・ブランドのメーカーが封じることも可能なのだ。ほとんどのケースで、ナショナル・ブランド・メーカーがプライベート・ブランドの脅威をコントロールできるはずなのだ。ナショナル・ブランドを持つアメリカの日用消費財メーカーの50%は、プライベート・ブランドも製造しているからだ。

 日々の業績が思わしくないなかで、競合の脅威を客観的、かつ長期的展望に立って眺めるのは、マネジャーにとって難しい仕事だ。プライベート・ブランドやノー・ブランド商品の攻勢にさらされている有名ブランド・メーカーの例を見せられると、心中穏やかではない(1)。イギリスのコット社が大手スーパーのセインズベリー社向けに供給したプライベート・ブランド、「クラシック・コーラ」の成功物語を聞いて不安にならないマネジャーはいないだろう。クラシック・コーラは94年の4月に発売され、価格はコカ・コーラよりも28%安く設定された。現在このブランドはセインズベリー社のコーラの売上げ全体の65%を占め、イギリスのコーラ市場で15%のシェアを占めるに至っている。

 プライベート・ブランドの成功にどう対応するかによって、あとあとまでその影響が残ることがある。93年4月、フィリップ・モリス社がマールボロの値下げを発表した翌週に起こったことを考えてみてほしい。ウォール街のアナリストは、この値下げをブランドに対する死亡宣告と見なした。同社の株式は140億ドルの評価減となり、日用消費財メーカー上位25社の株式も全体として500億ドルの評価減となった。

 多くのナショナル・ブランド、特に各カテゴリーで3位以下に甘んじているブランドが攻勢にさらされているのは間違いない。しかしながら、プライベート・ブランドの挑戦を冷静に見つめる必要性を、我々筆者たちは強く感じているのである。求められているのは客観的な対応策であり、他の競合ナショナル・ブランドについて慎重に考えるべきことと何の変わりもないのだ。さしあたりマネジャーは、プライベート・ブランドの脅威が今後も増大するものなのか、それともやがては消失してしまうものなのかを見極めなければならない。そのうえでブランド力を再検討しなければならない。ブランドはどうしてまだまだ元気なものだ。自社がプライベート・ブランドをすでに製造している場合は、ノー・ブランド市場で競争を行うコストと利益を勘案すべきである。もしプライベート・ブランドを製造していないのならば、その製造は見送るべきであろう。

プライベート・ブランドの脅威

 1990年代以降のプライベート・ブランドの脅威は本物で、景況のいかんにかかわらず今後もこれが続くであろうとされる材料がいくつかある。

プライベート・ブランドの品質改善

 10年前、プライベート・ブランドとナショナル・ブランドの間にはハッキリと品質に差が認められた。今日その差は縮まり、プライベート・ブランドの品質はいままでになく良くなり、バラツキもなくなっている。特に商品改良が従来ほとんどなかったカテゴリーでは、これが顕著だ。プライベート・ブランドを扱う流通業者は調達プロセスの改善を行い、品質管理にもはるかに注意を払うようになっている。

高級プライベート・ブランドの開発

 北米の革新的な小売業者の事例から、ナショナル・ブランドよりも優れた品質を持つプライベート・ブランドの開発手法を、他の流通関係者は学び取ることができた。ロブロウ社のプライベート・ブランド、「プレジデント・チョイス」は1500アイテムにも及び、カナダではチョコレート・チップ・クッキーのトップ・ブランドになっている。同社は丹念に世界的規模での調達活動を行い、その最高級ブランドであるプレジデント・チョイスと、通常のプライベート・ブランドの間にナショナル・ブランドを置いて挟撃できるようになった。プレジデント・チョイスはロブロウ社の店舗を超えて勢力を伸ばし、現在アメリカのスーパー15チェーンが、高級プライベート・ブランドとして、プレジデント・チョイスを扱っている。