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企業のCEO(最高経営責任者Chief Executive Officer)はたえず、投資に対する成果という問題に直面させられる。しかし、IT(情報技術Information Technology)への投資に関しては、ここ2、3年で意思決定のルールに変化が起こっている。
かつて、CEOは、部下である情報システム担当マネジャーが事業のコア・プロセッシング・アプリケーションを監督してくれ、新たにIT投資を行う場合は、規模が大きかろうが(たとえばアメリカン航空のSABRE予約システム【*】など)小さかろうが(画像化技術など)、情報システム担当マネジャーがCEOとライン・マネジャーの意思決定を補佐してくれるものと期待するのが一般的であった。
ところがいま、ITは、新製品開発から販売・サービス支援まで、そして、市場情報の提供から意思決定分析ツールの供給に至るまで、企業が行う活動の大半に何らかの役割を果たしている。グローバルに事業を展開する企業にとって、複数のシステムから情報を取り入れ、それを社内のマネジャーや従業員に広く提供できるか否かが、会社の命運を左右する。多くの観測筋は、この事実と、戦略的優位を獲得するためにITを利用する機会が増大していることとが相まって、CEOは、ITという資源を効果的に管理するために、自分たちがITについてどういうことを知っておくべきなのかを、いま一度検討しなおさなければならない立場に追い込まれていると考えている。
CEOは、IT投資に関する責任のうち、いずれの権限を部下に委譲すればいいのだろうか、また、どの部下に委譲すべきなのだろうか? IT投資の選択肢を検討する際、CEOはどういったことに目を向けるべきなのだろうか? CEOは、この難しい問題に取り組むために何を知っておくべきかを、どうやって学んでいるのだろうか? IT投資の決定に、CIO(情報担当責任者Chief Information Officer)や、ビジネス・ラインの責任者といった、CIO以外のマネジャーは、いったいどういう役割を果たすべきなのだろうか?
こうした疑問に取り組んできた6人の専門家に、それぞれ意見を述べてもらう。
アメリカン航空のSABRE予約システム
コンピュータ座席予約システム。アメリカで開発されたが、日本ではJALのAXESS、ANAのINFINIがあり、旅行代理店で日常的に活用している。
ジョン F. ロッカート
CEOがITについて何を〝知っている〟か、ということ以上に大切なことは、CEOとその企業の中心的メンバーがITについて、また、社内でこれを効果的に利用するために各自がどういう役割を果たすかについてどう〝考える〟かである。P. F. ドラッカーの言葉を借りれば、1995年においては、CEOは、ITという能力を会社の「ビジネス・セオリー」に組み入れなければならないのである(DHB1995年1月号、「企業永続の理論」<原題The Theory of the Business>より)。同じく重要なことだが、CEOは中心的メンバーに、それぞれの役割を適切に認識させなければならない。
ビジネス・セオリーが時代遅れになれば、企業は衰退する、とドラッカーは主張している。それは、「企業が経営の拠り所としてきた前提が、もはや現実に適合しなくなっている」からだという。なかでも、「市場、顧客、ライバル企業、コア・コンピタンス、使命、そして、技術」に関する前提などがこれに当たるという(傍点は筆者が強調のためにつけた)。前提の基盤である現実が変化したとき、企業はその変化をビジネス・セオリーに組み入れなければならない、とドラッカーは言っている。今日、IT以上に急速な変化を遂げている分野は、他に見当たらない。CEOの重要な仕事の一つは、こうした変化に照らして、ビジネスに対するCEOのセオリーを絶えず分析し、おそらくは変えていくことである。
1990年代になって、ITは、CEOが組織を形成し、運営していくのに利用できる重要資源のうちの第4位に位置するようになった。企業は、このほかの3つの重要資源、すなわちヒト、カネ、モノを長年にわたって管理してきた。ところが、いまでは、ITがアメリカの資本財支出総額の50%以上を占めるようになった。いまこそITのあるがままの姿を認識しなければならないときが来ている。つまり、ITを、旋盤、タイプライター、自動車といった単一目的使用の機械とは異なり、企業横造、企業の顧客へのサービス方法、企業の内外でのコミュニケーション手段に劇的な影響を及ぼしうる主要資源の一つとみなさなければならないのである。



