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「どのように市場やビジネスが動いていくのか」。我々はこの問いの答えを探すために、100年以上も昔のヨーロッパの経済学者たち、すなわち、イギリスのアルフレッド・マーシャルを筆頭に、彼と同時代に活躍した一握りの大陸の人々にまでさかのぼることができる。
そこから得られる答えは、「収穫逓減」という仮定に基づくものである。それは、ある市場で成功した製品や企業は、最終的には限界へとたどり着き、その結果、予測可能な価格およびマーケット・シェアの域に落ち着く、という仮定である。
この理論は、大雑把に言って、大量加工(大量生産)経済、つまりマーシャルの時代の煙突経済にとっては正しかった。そして、この理論は、いまなお今日の経済学の教科書の中に生き残っている。
20世紀において、西側経済は着実かつ連続的に、大量の原料生産からテクノロジーの設計および利用へ、資源の加工から情報の加工へ、自然エネルギーの応用からアイデアの応用へのシフトを経験してきた。
このシフトに伴って、経済行動を決めるこれまでのメカニズムは、逓減的なものから逓増的なものへとシフトしてきた。
収穫逓増とは、成功しているものがいっそう成功する傾向、優位性を失ったものはますます優位性を損なう傾向のことである。
すなわち、市場、ビジネス、産業において、成功を勝ち取った者をさらに強化し、ダメージを受けた者をさらに弱めるポジティブ・フィードバックのメカニズムのことである。
収穫逓増は、均衡ではなく「不安定性」を生み出す。
ある市場で熾烈な競争している、ある製品なり、企業なり、産業が、幸運あるいは秀逸な戦略によって成功したならば、この収穫逓増のメカニズムが働くことによって、その優位性は拡大し、その製品なり、企業なり、テクノロジーが、その市場にロックイン(固定化)を続けていく。
製品のデファクト・スタンダード化ということを超えて、収穫逓増のメカニズムは、我々がこれまで学習してきた「ビジネスをどのように差別化させるか」「今後どのようにビジネスが動いていくか」に関する考え方を覆【くつが】していく。



