2万7000年に一度しか生じないような些細な計算ミスが顧客を怒らせたため、インテル社のペンティアム・チップがいとも簡単に不採用になりかけたのはなぜか。安いカップ・ホルダーを取り付けるというわずかな工夫だけで、大勢の顧客が1万7000ドルもする乗用車の購入に殺到した――しかも3年後には、乗用車を買うときにこのカップ・ホルダーの有無で車を決める客はほとんどいなくなった――のはなぜか。このような一見不合理な顧客の行動を目の当たりにして、はたして合理的な製品戦略を立てることができるのだろうか。

 どんな製品も実際には見た目より多くの特徴を備えている。高収益志向の製品戦略は、顧客が求める特性を揃えて提供すればいい。顧客が評価する特性の開発に必要な投資をしない企業は顧客を失い、顧客が評価しない特性の開発に過大な投資をする企業は銭(ゼニ)を失う。

 経営者は製品特性を顧客ニーズに合わせる努力が必要だ。しかもこれは、同業他社の改良努力と顧客ニーズの変化があるかぎり、エンドレスの作業だ。筆者らは自社製品の特性と顧客層別のニーズの一致を図るための簡単な経営者向け分析ツールを開発した。

 最初に行うことは、仮説のマネジメント手法を使って優れた目玉特性――その他のものはすべて同じ条件として、買うかどうかの決め手になるほかにはない特性――をすべて洗い出すことである。

 次に「特性類別評価マトリックス(ACE: Attribute Categorization and Evaluation)Matrix」と名付けた一覧表に、決め手になる目玉特性を記入する。これは特性それぞれの競争上欠かせない条件をクローズアップさせるためのマトリックスである。このマトリックスを見れば、それぞれの特性に対してどうすればいいか、がわかる。

ステップ1
目玉特性の洗い出し

 いずれの顧客層にも、その行動パターン――製品を使う理由や使い方、購買方法、購買リスクの認識方法のパターン――の違いがある。これらの顧客層は単純に年齢や性別などの人口統計上の違いでは定義が難しい。人口統計上の違いは単に実際の行動の違いとの相関を示すにすぎず、製品特性と顧客層のニーズとを一致させようとする機会を提供するものでしかない。

 顧客がなぜその製品を買うのか、それをどう使うかをよく観察することが、その製品の目玉特性を発見する第一歩である。目玉特性は製品自体の属性の一部である場合もあれば、パッケージとして存在する場合もある。時には製品との関係がそれほど明瞭でない場合もある。たとえば、以前に買ったという経験と関係あるものがある。注意して見ていると、思いがけない目玉特性の発掘に役立つことがある。ジョン・スカリーが指揮したペプシコ社でのマーケティング・チームの例で、同社が1970年代のコーラ市場について再検討した経緯を眺めてみよう。

 何年も経て初めて、スカリー・チームの努力により、ペプシコーラを買って飲む消費者の行動観察が詳細にわたり行われた。ペプシコ社は家庭内消費者調査を行い、350家族に同社の製品と競合製品を毎週割引価格で注文できる機会を与えた。マーケティング・チームが驚いたのは、ペプシの製品をいくら買っても、消費者はそれをすべて飲んでしまうことだった。さらに驚いたことは、買ったコーラの本数は消費者の好みによるものではなく、家に持ち帰る能力に限られることだった。消費者は楽に持ち運べるだけの本数を買った。ただそれだけのことだった。

 このことを検討した結果ペプシコ社は、市場のリーダー、コカ・コーラ社に対抗する一つの方法として、パッケージングに焦点を絞った。ガラス瓶に代えてプラボトルを採用し、6本パックに代えてマルチパックにした。独特のペプシのロゴで消費者の目を引きつけた。さらに重要な点は、このパッケージング戦略がコーラの大きな強みであった小型で独特の、途中がくびれたガラス瓶を重荷に変えた。つまり、当時はこれと同サイズ・同形のプラボトルの製造コストは非常に高かったからだ。

 ペプシコ社は、消費者に買う気を起こさせるような潜在的目玉特性――重さ――を発掘した。スカリーの調査チームは顧客を注意深く観察し、顧客がなぜそのように行動するのかについてさらに詳細に検討した結果、この結論にたどり着いた。目玉特性を発見することは、科学というよりむしろ創造的芸術である。しかし、調査はそれを組織的に行えば、成果を生む可能性が最も大きい。目玉特性を探し出す方法は4つある。