-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
-
PDFをダウンロード
競争の激化と複雑化が進行する昨今の状況下で、マスメディアに氾濫するメッセージや店頭にあふれる商品に埋没しない斬新なアイデアが求められていることは、マネジャー諸氏は、先刻ご承知のはずである。かつてウォルト・ディズニー社も、他人と同じことをしていては勝てないと言っていたものだ。しかし残念ながら、斬新なコンセプトほどリスクも大きくなる。これは製品、パッケージ、価格、広告販促、流通計画いずれの変更についても言えることだ。従来、企業はリスクを軽減するために、消費者が新しいアイデアに対しどのような反応を示すかを、マーケティング・リサーチで調べてきた。過去20年の間に、多くの分野で息をのむばかりの技術革新が行われてきたにもかかわらず、悲しいかなほとんどのマーケティング・リサーチ手法は、大なり小なり時代遅れだ。カネがかかりすぎる、観察がしにくく競合他社による情報操作の対象になる、不自然で現実味に欠ける、あるいはマネジャーの求めている情報が提供されない、など、マーケティング担当者によって使われている方法の多くは問題を抱えている。
仮想現実(バーチャル・リアリティ)の領域における技術革新は、マーケティング・リサーチ、そしてその先へ続く可能性を切り開き、新たな期待を抱かせてくれる。ちょうど真空管によってラジオが家庭に行き渡り、マイクロチップによってパソコンが可能となったように、3次元コンピュータ・グラフィックスによって、マーケティング・シミュレーションが広範な企業で、そしてさまざまなアプリケーション上で実現できるようになった。バーチャル・ショッピング・シミュレーションによって、製品、プロモーション、パッケージ、マーチャンダイジングの変更などの戦術的意思決定を支援できる。このツールは、企業のイノベーションのあり方、新規市場参入から競合他社への反撃など、さまざまな戦略課題に対するアプローチの仕方を究極的に変えていくに違いない。
マーケティング・リサーチの現状
バーチャル・ストアを細かく検討する前に、現在多くのマネジャーに利用されているマーケティング・リサーチの手法を考察しておくことが有益だ。従来行われてきたテスト・マーケティング(訳注:地域を限定した試験的な製品導入)を例にとって考えてみよう。地方あるいは全国展開に踏み切る前に、新製品に対する消費者の反応をテストしたい企業があるとしよう。こうした企業ではまずサンプル製品を生産し、営業部員がそれを典型的かつ中規模の市場に持ち込む。マネジャーはPOSデータを倉庫出荷数、工場出荷数などの情報と組み合わせて使用し、売上げやマーケット・シェアを追跡する。この方法では、製品を自然な競争状態の中に置きながら、調査対象となる消費者に販売するため、テスト地域外にも有効な結論を出せるとマーケティングの専門家は言う。問題は、この方法は時間がかかり、費用もかさむことだ。テスト・マーケティングを1回行うのに半年から1年、あるいはそれ以上かかるということも珍しくなく、費用は数百万ドルにのぼることもある。新製品が店頭に並ぶだけでも1~2カ月かかるというのが普通だ。さらに競合他社にテストをしていることが見つかると、彼らはプロモーション活動を強化して調査を妨害しようとしたり、アイデアを横取りして類似製品を急きょ市場導入したりする危険がある。また、リサーチが完了するまでに市場の状況が変わってしまえば、分析結果は意味を持たなくなる。
第2の方法は、一定条件下で行う店頭実験である。この場合、リサーチ会社は実験対象店舗を抽出し、これら店舗に新製品を配荷する一方、比較対象とする店舗を選び、ここで実験を行っていない現在の状態を維持するようにする。実験期間中、リサーチ担当者は在庫、発注、価格、請求を管理する。このような実験は一般にテスト・マーケティングに比べて手早く、費用もかからない。しかし欠点がないわけではない。まず当然のことながら、実験もまた従来型のテスト・マーケティングのように、現実的なものにはならないということが挙げられる。商品の取り扱い方が普段とは異なっているからだ。たとえば商品を棚に並べるのは実際の店員ではない。流通側も抵抗する。流通業者は商品の品揃えやマーチャンダイジングを変えることで、顧客が混乱することを嫌う。また、流通業者がこれら実験の結果を他の流通業者と共有することを認めるというのも考えにくい。さらに従来のテスト・マーケティング同様、店頭実験によって競合他社に動きを読まれる危険もある。
上記2つの方法に共通の問題をもう一つ挙げれば、流通現場の売上げデータにはノイズが非常に多く含まれているということがある。ノイズ、すなわち購買行動パターンが不審な動きを示すと、リサーチ担当者も、マーケティング活動の有無による効果か否かを特定することは困難になる。たとえばシカゴのジュエルという食品スーパーで、スコット社のペーパー・タオルのシェアはある週には47.7%あったのに対し、他の週では同一商品であるにもかかわらず、4.7%のシェアしかなかったこともある。このような振幅のかなりの部分は、スコット社のプロモーションによるものではなく、競合他社の活動によるものだ。そのほかにも欠品、メーカーの広告活動、そしてさまざまな政治的・経済的な変動もノイズになる。
3番目に挙げられるマーケティング・リサーチ手法は、アンケート、調査、インタビューなどによって消費者の嗜好を尋ねるやり方である。新しいコンセプトをテストする方法はいくつかあるが、最も一般的なのはグループ・インタビューである。6名から10名の消費者を一グループとして調査会場に集め(ショッピング・モールにあることが多い)、新規導入する製品、パッケージ、広告、プロモーションについて感じるところを語ってもらう。通常、プロの進行役が中心となって議論を進め、あとで分析を行うために、参加者のコメントはテープないしは議事録に記録される。結果がわかりやすい、手っ取り早い、カネがかからない、機動的に行える、機密維持が可能などの理由で、グループ・インタビューは【*】人気がある。
しかし残念ながら、グループ・インタビューによる調査にも、多くの点でいかんともしがたい限界がある。最もよく指摘される(しかしまた無視されることも多い)問題は、このテスト結果だけでは、消費者一般についてそれが妥当かどうかを言うことができないということだ。またグループ・インタビューは(またその他の「実験室」的方法全般には)いくつかの点で現実性に欠けるところがある。まず「マーケティング刺激」の問題がある。文面ないしは口頭でコンセプトを記述し、これに対する消費者の反応を見る方法がよく行われる。また消費者に、ある商品のイラストや、そのプロモーションで使う制作物のラフ・スケッチを見せることもある。しかし実際に消費者にどの程度受け入れられるかは、コンセプトと、それに沿って行われるマーケティング活動の成否によってかなり異なってくる。たとえば、ある低脂肪冷凍惣菜の新製品を、(ブランド、パッケージ、プロモーション、マーチャンダイジングによって)体重が気になる人向けのダイエット食品としてポジショニングするか、あるいは活動的でヘルシー志向の壮年向けにポジショニングするかでは、潜在的な市場規模や商品需要の大きさが相当違うこともある。
グループ・インタビューが現実性を欠いているとされるもう一つの点は、大半の顧客が既存商品との比較において、新製品、パッケージ、プロモーションを評価するのに、ここでは「競合他社という概念」が欠落していることだ。その結果、この調査手法では真に独創的なマーケティング企画の効果が十分に反映されない傾向がある。
第3の問題点は、グループ・インタビューによるテストでは「消費者の購買行動」を検証できないことにある。グループ・インタビューでは消費者に、新製品・サービスに対する彼らの態度を尋ねる、あるいは彼らの購入意向を推定してもらうのが普通だ。その結果得られるデータから、消費者の嗜好についての見通しは立てられるものの、売上げ、マーケット・シェア、製品間での食い合いの程度、収益性など、マネジャーが判断材料としたい、定量的なめどを立てることはできない。




