会計士、エンジニア、財務担当者、技術士、情報専門家、マーケティング担当者と、ビジネス界の専門家を養成する学校にはこと欠かない。もちろん、経営幹部を育てる学校もあり、これを目指す人たちは、何千とはいわないまでも何百ものMBA(経営修士号)取得コースのあるビジネススクールの中から、好きなビジネススクールを選ぶことができる。だが、全社員から最高の成果を引き出すことが期待されている人は、どこでその方法を学べばいいのだろうか。企業のCEO(最高経営責任者)の場合、経験のほかに学ぶ場はない。企業トップたちは、会社をどうリードしていくかを実地で学ばなければならず、しかも、利害関係者全員が注目する中で学んでいかなければならないのである。

 CEOの仕事は、社内の他のどの仕事とも違う。CEOの仕事に明確な規定などない。当然のことだが、(企業のトップたる)CEOとは、自分のあずかり知らぬ決定や行動までも含めて、全社員のあらゆる決定や行動の最終責任者なのである。CEOは、たとえその座に就いたばかりでも、少しのミスも許されない。調査によると、CEOの35%から50%が5年以内にその座を去っている。これは、どんな企業ものんきに受け止めてはいられない数字である。なぜなら、企業がリーダーを失えば、たとえ一時的であっても、企業としてのアイデンティティや方向性が必ず、何らかの形で損なわれるからである。

 2年前、我々はCEOの役割に興味を抱き、CEOたちが企業をどのようにリードしているかについて、大規模な調査を開始した。1年にわたって世界中の企業のトップ160人に面接調査を行ったのである。その大半は、鉱業、コンピュータ、清涼飲料というように実に多種多様な産業分野の大企業の経営者であった。こうした企業トップたちの企業経営法の裏に、どういう特徴的な姿勢、活動、行動があるか、これを調査することが我々の目的だった。正直に言うと、この調査プロジェクトを開始する時点で、我々は、160人のCEOには、リーダーシップへのアプローチが160通りあるだろうという仮説を立てていた。ところが、実際は違っていた。我々の調査では、際立ったアプローチとしては、たった5通りしか存在しなかったのである。

 どこの国の企業であろうと、どんな製品を作っていようと、CEOは、自分がどうすれば会社に最高の価値を付加できるかについては、指針や基盤となる自分なりの哲学を開発しなければならない。この哲学が、CEOのリーダーシップ・アプローチを決定するのである。ここで、「アプローチ」という言葉を使ったが、たとえば、CEOは、戦略策定、研究開発、社員の採用などといった、コーポレート・ポリシー(企業の方針)のどの部分を最も重視するか、組織内のどういった人材や行動に価値を認めるか、どういった決定を自ら下すのか、または人に任せるのか、毎日の時間をどういうことに費やしているのか、我々は、そういったことでCEOのアプローチを判断していった。リーダーシップ・アプローチとは、首尾一貫した明確な経営スタイルであり、個人的な趣味・主義の反映ではない。両者の違いは重要である。(囲み「CEOの個性はどう関係するのか」を参照。)

各企業トップにみるリーダーシップと個性の関わり
CEOの個性はどう関係するのか

「リーダーシップというのは、個性ではないんですか?」

 我々の調査や5つのリーダーシップ・アプローチに関して話をすると、よく、こういう質問が発せられた。ほかにも、「リーダーシップとは、生まれつきの資質の場合もあるし、そうでない場合もある」という意見もたびたび耳にした。

 リーダーシップは遺伝的な特性である。リーダーシップへのアプローチは個性の発露でしかない。我々は、この2つの考え方は間違っていると思う。実際、個性は優れたリーダーシップの一要素ではあるが、決定的な要素ではないことを、我々は今回の調査から知った。最も成功している部類の企業では、CEOはビジネスの状況を精査し、会社がリーダーに求めているものを見定め、こうした必要条件に最適のリーダーシップ・アプローチを選択していた。そのアプローチがCEOの個性に符合する場合もあるが、そうでない例もあった。我々の調査では、企業を効果的に経営するため、非常に優秀なリーダーは、むしろ、個性の一部を押し殺したり、生来備わっていなかった個性を開発したりしていることがわかった。

 バンカメリカ社のリチャード・ローゼンバーグの例をとってみよう。本人も認め、我々からもそう見えるが、ローゼンバーグは、リーダーシップにボックス型アプローチを採用している。非常に規制の厳しい産業でバンカメリカを経営するのだから、そうせざるをえなかったと、ローゼンバーグは言う。ちょっとしたミス、もしくは不正事件などを起こせば、ゆゆしい事態になるのだ。それゆえ、バンカメリカは、顧客に対して、厳密なコントロールを敷く義務があり、CEOはそうしたコントロールを主要責務にしなければならないのである。

 だが、ローゼンバーグは、いかにもボックス型アプローチを採用しそうなタイプだろうか。とんでもない。実際は、堅苦しいところがなく、愛想のよい、社交的な人物である。「本当の私は違う。私自身はボックス型の人間ではない。マーケティング担当の社員とウマが合うタイプなんだ。だが、わが社の状況がボックス型を必要としていた。だから、このアプローチを選択したというわけだ」

 テネコ社のCEO、デイナ・ミードはどうだろうか。1992年初頭に、年商30億ドルのコングロマリット、テネコのトップの座に就いたとき、ミードには、同社は正しい方向に進んでいるように見えた。ところが、すぐに、テネコが全く見当違いの方向に進んでいることがわかった。テネコの傘下には有望な事業があったのだが、同社のビジネス習慣の多くが有望事業の伸びを妨げていた。資本配分システムは非常に政治的なものだったし、報酬プログラムは無意味な目標に対する測定結果に従うものであり、戦略策定プロセスは存在していなかった。根本からのオーバーホールをしなければ、テネコは21世紀に生き残れない、そうミードは思った。ミードの戦闘作戦は「変革」だった。そして、ミードは、文字どおり、変革型アプローチのありとあらゆるテクニックを採用した。新しいポリシイと手順を導入し、新しい文化を築き、一部の業務を廃止し、新しいビジネスのやり方を受け入れようとしない、あるいは受け入れられない社員はクビにし、世界中に散らばるテネコの社員に変革の教義を説いて歩いた。

 だが、ミード自身が、こうした役割にもってこいの性格なのだろうか。またもや、大違いである。ミードは、穏やかな口調で話す、どちらかというと物静かな人物である。テネコに移る前のインターナショナル・ペーパー社のCEO時代、ミードは持ち前の性格に合った人材型リーダーだった。だが、テネコのビジネス状況が必要としたのは、ミード自身の個性とは異なるアプローチだった。そして、ミードは、これに果敢に挑戦したのである。これこそ、優れたリーダーシップではないだろうか。

 CEOの持ち前の性格と採用したリーダーシップ・アプローチがぴったり符合するケースもあったが、これも驚くことではない。サウスウエスト・エアラインのCEO、ハーブ・ケレハーは、ユーモアたっぷりの気さくな人物だが、おそらく、人材型アプローチ以外のリーダーを必要とする企業では働けないだろう。独断的で周囲に厳しい注文を出す、ゴールドマンサックスの元マネージング・パートナーのスティーブン・フリードマンは、どんな会社に行っても変革を強力に推し進めようとするだろう。

 このような、リーダーの個性とリーダーシップの一致は、どう説明がつくのだろう。2種類のシナリオが考えられる。

 第1のシナリオは、偶然が運よく働いたというものである。CEOがビジネス状況を判断し、必要だと思われるリーダーシップ・アプローチを選択する。それが、たまたまCEO個人のスタイルと同じだったというシナリオである。第2のシナリオのほうが現実に即しているように思われる。その内容はこうである。社内の個人やグループが、ある人物がその会社に必要な資質を備えていると判断して、CEOに起用するというものである。たとえば、取締役会が、その会社には、強力な戦略的方向性が必要だと判断したとする。ならば、どういうタイプのCEOを探すだろうか。社員個々に進むべき道を示し、権限を委譲することに時間をかけるCEOではない。データの意味を探ろうとする人物、市場の現状を分析し、将来を予測する能力を持っていることがすでに証明されている人物、現在から未来に至る道筋をつけることのできる人物なのである。

 取締役会は、すでに戦略の雄として知られる人物をリーダー候補に選ぶだろう。選ばれたCEOは、すでに成果を上げているのだから、移った先の企業でもそれまでどおり、戦略型アプローチを採用するだろうし、その職に「うってつけ」の人物と周囲からも認められるのである。

 リーダーシップ遺伝子の存在が科学的に証明されるまで、リーダーシップと個性との関連についての議論が止むことはないだろう。ただし、そんなことが証明されれば、政界はいうまでもなくビジネス界にも相当な影響が出るだろうが。

 たとえ、リーダーシップが生来の資質ではなく、後天的に育まれるものであることが科学的に証明されたとしても、企業を成功に導くのは、パットン将軍のような昔ながらのタイプのリーダーだけだと考える人がいなくなることはないだろう。我々の調査でわかったのは、リーダーシップとはもっと複雑なものであり、リーダーの内面的な資質よりは、むしろ、周囲の環境や状況といった外的要因が決定していくものだということである。

 我々の調査では、優れた業績を上げている企業では、CEOは、単に自分の個性に合ったリーダーシップ・アプローチを採用するのではなく、組織のニーズとビジネスの現状に最もうまく対応するアプローチを採用していることがわかった。その企業が属している業界は急成長中なのか、それとも、もう成熟の域に達しているのか? 技術がものをいうのか、もしそうなら、今後、技術はどういう方向に向かうのか? わが社の資本とは、人材とは何だろうか? 持続可能な競争優位を可能にするものは何か、わが社は、それをどこまで達成しているのか? こうした疑問の答えが、優秀なCEOが次に挙げる5つのリーダーシップ・アプローチの中からどれを採用するかを決定しているのである。

1. 戦略型アプローチ

 戦略型アプローチを採用しているCEOは、CEOの最も重要な仕事は、場合によってはかなり先の将来まで継続される長期戦略も含め、戦略を開発し、試験し、実施に向けた準備を整えることにあると信じている。このアプローチを採用しているCEOは、自ら、社内の全部門にくまなく目を向けることになり、それゆえ、組織内に資源を配分し、自社に最も適した方向を決定することができると語っている。

 日常業務では、このタイプのCEOは、自社のポイント・オブ・デパーチャー(ビジネスの現状)とポイント・オブ・アライバル(将来、獲得することを目指す市場での最高優位)を正確に把握することを目的とした活動に時間を割いている。また、自分の時間の約80%は、採用・管理システムなどの社内的な要素ではなく、顧客、ライバル社、技術進歩、市場動向といった外的要素に費やしている。そのため、戦略型アプローチを採用しているCEOは、的確な分析・計画立案能力を持つ社員に加えて、日常業務を任すことのできる社員に価値を認める傾向にある。

2. 人材型アプローチ

 戦略型アプローチのグループに属すCEOとはきわめて対照的に、人材型アプローチを採用しているCEOは、戦略の策定は、市場に近いところ、すなわち個別の事業部門が行うべきだと固く信じている。このタイプのCEOによれば、自分たちが第一にしなければならないのは、社員個々の成長と開発を綿密に管理することにより、一定の価値観、行動、姿勢を社内に植え付けることだという。そして、定期的に支社支部を回りながら、採用、業績評価、キャリア・マッピングといった人事関連の活動に時間の多くを割いている。

 このタイプのCEOが目指すのは、社内のいたるところに、CEOと同じ立場に立てる社員を人工衛星のように配備することである。言い換えれば、組織のどのレベルにも、CEOと同じように行動し、意思決定を行うことのできる社員を置くのである。このタイプのCEOは、当然ながら、いつも組織の規範を守るとは限らない、いわゆる独立独歩タイプの人間ではなく、つねに「会社のやり方と同じ」行動をとる長期勤続の社員に価値を認めている。