10年にわたるプロセス改善の結果、企業の業務のやり方がすっかり変わった。そうした変化とともに、経営幹部の仕事も同じくらい大幅に変わった。トップダウン型の独裁者がすたれ、ボトムアップ型のチームが主流になっている。ヒーローとしての最高経営責任者(CEO)は、ゼロックスやフォードに見られるようなチームワークに取って代わられつつある。一部の経営幹部の話を聞くと、彼らの直接的な関与は消えつつあるようで、プロセスさえ正してやれば、企業はひとりでに経営管理されていくような印象を受ける。

 しかし、このような印象は、単純な真理を隠してしまっている。それは、企業を動かすのはプロセスではなく、経営幹部であるという点だ。実際、プロセスを重視する企業では、従来にも増してトップダウンの経営管理が求められる。だからこそ最も成功している企業の一部では、経営幹部がより積極的に行動し、干渉するようになっているのである。彼らは自分自身により大きく強力な役割を設定し、しばしば公式に定められた自分たちの職務内容を大きく越えるような範囲まで管理している。彼らは単に部下に権限を与えたりアドバイスしたりするだけでなく、実行者なのである。

 しかし、今日の活動的なCEOの仕事のやり方は、過去の経営幹部のやり方とは大きく異なる。ヒーローとしてのCEOは確かに死んだ。現代の企業間競争の複雑さを考えれば、1人の個人、あるいは2人か3人のトップでさえも、企業を成功させるのに必要なすべてを行うことはできない。企業の成功は、経営幹部全員がそれぞれの職能ないしは部門ごとの職責だけでなく、会社全体に対する共同の責任にも取り組んでいく意欲と能力とにかかっている。経営幹部だけが日常の業務に煩わされず、新しい流れを認識し、そこに意外な関連を見いだし、行動に向けてのテコの効果が最大限になるポイントを見極めることができる。

 経営幹部は3つの重要な理由から、積極的に行動しなければならない。

□第1に、リエンジニアリング【*】によって始まるプロセスを、プロセス改善で必然的に刺激される政治的なあつれきを管理したり、リエンジニアリングの成功にとって最大の障害である管理上の障害を取り除くことによって完遂できるのは、経営幹部だけである。

□第2に、経営幹部は自らの権限を活用して問題の核心に切り込むことができ、いくら権限を与えられていようと管理職レベルのチームではできないような方法で優れた解決策を提示することができる。このように、経営幹部が業務の改善や仕事の再設計に直接関与することは有効であるケースが多い。

□第3に、経営幹部だけがプロセス改善を戦略に結びつけることによって、競争上の大躍進を図ることができる。プロセスが優秀でも、それ自体では持続的な競争優位に結びつくことはめったにない。しかし、企業の戦略(=企業がやろうとしていること)が企業の能力(=企業ができること)と切り離されているケースも多い。行動的な経営幹部の究極の責任は、戦略と能力とを結びつけることである。

 経営幹部が一丸となって積極的に政治的な問題を管理し、障害を取り除くならば、ほかのだれにもまねできないほどのインパクトを与えることができる。我々は、さまざまな業種にまたがる日米欧の約550社を対象に、技術革新の進め方に関する調査を行ったのをきっかけに、経営幹部の積極的な行動に関心を持つようになった(囲み〝行動的な経営幹部はいかに技術革新を促進するか〟参照)。我々の目的は、競合他社より技術革新のペースが速く、そうした技術革新をテコにシェアを伸ばしている企業の経営管理の特徴や組織的な能力を探ろうというものだった。この結果わかったのは、TQM【*】やリエンジニアリング、自己管理型チームの形成、あるいは機能横断的なプロセスの制度といった多くの企業が取り入れているプログラムだけでは、より迅速で効果的な製品開発を実現することはできないという点だった。実際我々の調査では、製品開発で優れた実績を上げている企業は、そうでない企業よりむしろそうしたプログラムを実施している割合が低かった。技術革新において真に勝敗を分けているのは、経営幹部の果たす役割の違いであった。

日米欧550社の調査からみる
行動的な経営幹部はいかに技術革新を促進するか

 我々は、技術革新のペースが最も速い企業の経営管理の特徴や組織的な能力を探るため、さまざまな業種にまたがる日米欧の約550社における技術革新の進め方を調査した。その結果、優良な企業の経営陣は、ほとんどが正式には開発プロセスに責任を負っていないにもかかわらず、新製品開発を支援し、促進するような環境づくりにもそれなりの責任を果たしていることがわかった。たとえば、彼らは新しいチームのメンバー全員をプロジェクトの立ち上がりに間に合うように発表するよう求めることで、効果的な人員配置を保証している。彼らはまた、技術、生産部門が独断専行で開発を進めることがないよう、互いに協力してチームに必要な数の営業・販売部門の代表が参加するよう手配し、全社的な視点を確保している。彼らは、長期間のプロジェクトを終了したスタッフがそれぞれの職能別組織に戻る場合も、すんなり溶け込めるよう配慮している。

 技術革新のペースが最も速い企業の経営幹部は、発売予定の新製品の試作品を早い段階で見たがる。開発チームが新製品に関して直面する問題は、組織上の障害が立ちはだかっていることを示唆する場合が多く、開発チームがこうした障害を克服するには経営幹部レベルの関与が必要だ。

 最後に、行動的な経営幹部は頻繁に現場に足を運び、顧客を観察したり顧客の声に耳を傾けたりすることで、技術革新の促進に一役買う。彼らは開発プロセスを指導し、節日ごとにチェックするだけでは満足しない。彼らは顧客と直接触れ合うことで市場に精通しているだけに、開発の早い段階で新製品の仕様を決定し、後は一歩下がってチームに任せてしまえるのである。

封建領主としてのマネジャー

 意図はどんなに素晴らしかろうと、どこの大企業でも経営陣がチームとして効果的に機能することは現実には難しい。原理上は、どの経営幹部も会社のために最善と思われることをやりたい。しかし現実には、強力な阻害要因がある。それはなぜか。まず、それぞれの経営幹部が会社に対して異なる見方を持っていることが一つ。購買担当の副社長とアジア事業の責任者、その会社のアメリカ国内でのドル箱商品部門の責任者は、いずれも異なる見方を持っている。彼らがそれぞれの立場の違いを越え、会社についての共通認識を育むことは容易ではない。会社に対する見方が異なるばかりでなく、経営幹部は実際に利害の対立も抱えている。どれほど協力することが必要であろうと、彼らは経営資源や評価、そして究極的には最高のポストをめぐってしのぎを削るライバル同士でもある。

 経営幹部はそうした圧力を受けて、しばしば利己的な行動に走る。国王に気に入られようとする封建領主のような行動をとるのである。彼らは正面衝突の可能性を痛いほど意識し、そのために自分の縄張りを守り、他人の聖域を攻撃することを避けようとする。その結果、大きな問題が手つかずのまま放置されてしまうのである。