脳神経手術において、何事も「予定通りに進む」ということはほとんどない。患部を開いてみて初めて見えるものがあり、血管の走行も組織の状態も人によって異なる。だから私は、手術とは「想定外」が起こって当たり前の作業だと考えている。そうすれば、何かが起きた瞬間にも動揺せずに対応できる。これは悲観ではなく、むしろ安定した判断を行うための出発点だ。驚きや焦りは判断を鈍らせるため、私にとって最初に整えるべきは前提なのである。

提供:藤田医科大学

 たとえば想定外の出血が起きた瞬間、「なぜ起きたのか」と感情的に反応してしまうと、手が止まり、判断も遅れてしまう。だから私は、起きたことをそのまま受け止め、「次にどこを見るか」「どう止めるか」と意識を切り替える。ステップを踏んでいくことが大事だ。

 このように手術には、一つの大きな判断だけがあるわけではない。数十回、数百回という小さな判断の積み重ねが流れをつくる。どの角度で入るか、どこまで切るか、いまの手応えはどうか、次にどうするか、一つひとつが判断だ。大きく飛び越えようとすると、戻る場所がなくなる。問題が起こった時には一つ前の段階に戻れるように、手術そのものを段階化して組み立てておくことがとても大切だ。

判断の質を高めるには

 では、どうすれば瞬時の判断の質を高められるのだろうか。それは手術室に入る前から決まっている、と私は思っている。トラブルは必ず起こりうるものとして、頭の中であらゆる状況を想定し、シミュレーションしておく。準備とは、答えを決めておくことではなく、可能性の幅を広げておく作業だ。「こうだろう」という当たりをつけながらも、別の展開も想定する。一つの像に固執すると、違った時に判断が崩れてしまう。だから私は、複数の可能性を抱えたまま手術に臨む。これが、不確実性と向き合ううえで最も合理的な方法だと感じている。