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航空会社ほど競争が熾烈な事業は、なかなかほかに見当たらない。しかし、競争が厳しいからといって、顧客を手厳しく扱うわけにはいかない、とブリティッシュ・エアウェイズ(BA)のサー・コリン E. マーシャル会長は語る。多くの航空会社、なかでもアメリカの主だった航空会社は、旅行者が一番に気にするのは料金だと信じて、サービスの質を落として、運賃の値下げを優先させているようである。しかし、サー・コリン会長は、そうあってはならないと考えている。航空旅行業界のように破壊的な価格で大衆マーケットを相手にする事業においてさえ、エコノミークラスの利用客の中にも良質のサービスにプレミアム(付加料金)を支払おうとする顧客は多い、とサー・コリン会長は語る。ばかばかしく聞こえるかもしれないが、BAの利益を見てほしい。世界中の航空産業がこの5年間に数十億ドルもの赤字を蓄積してきたのに対して、BAはひとり安定して黒字を出している。
「顧客のバリュー・ドリブン・ニーズに応えるようサービスを編成」し、ブランド資産を構築し、プレミアムを請求することについて語る、今年61歳のサー・コリン会長は、明らかに航空産業のイコノクラスト(偶像破壊者)である。やはり、サー・コリン会長も航空事業生え抜きの人物ではない。初めて就いた職業は船のパーサーであった。その後、(レンタカーの)パーツのマネジャー、次いでエイビスのマネジャーとなって世界各地をまわり、1976年にエイビスのCEO(最高経営責任者)となった。1979年にエイビスがコングロマリットのノートン・サイモンに買収され、食品部門ハント・ウェッソンの経営もサー・コリン会長の手に委ねられた。当時の経験がブランドのパワーを認識するきっかけとなった。1981年、イギリスの小売業・靴メーカーのシアーズがCEO代理の職を提供して、サー・コリン会長をロンドンに呼び戻した。そして1983年には、イギリス国家からのお召しがかかった。サーッチャー首相の指名により、今度は、赤字に苦しんでいた国営企業BAを、投資家に魅力的に映る、競争力のある航空会社に変身させるべく、奮闘することになった。
サー・コリン会長はロード・キング前会長と力を合わせてBAを立て直し、1987年には民営化を実現した。当初CEOとして迎えられたが、1993年にはロード・キング前会長に代わって会長の座に就いて以来、まるで顧客をないがしろにしているかに見えた企業から顧客を喜ばせることに努める企業へと、BA変身の陣頭指揮をとってきた。サー・コリン会長はまだ、この闘いに勝利宣言を出すつもりはないようだが、ここにきて、さらに巨大な挑戦課題が出現してきた。BAは真のグローバル化を果たす最初の航空会社となるべく、世界のあちこちで他の航空会社との業務提携を進めている。すでに、USエア、オーストラリアのカンタス、フランスのTATヨーロピアン・エアラインズ、ドイチェBAの株式を大量に取得している。一企業が複雑な人間相手の事業で質の高いサービスを一貫して提供することが容易でないのなら、複数企業が集まったグループをそう仕向けるのはどれほど困難なことであろうか。サー・コリン会長はロンドンのオフィスで、サービス産業の競争についてハーバード・ビジネス・レビュー誌の編集主幹、スティーブン E. プロケッシュを相手に語ってくれた。
HBR(以下略):BAのような大手が、どうすれば、きわめて過酷な商品サービス業で他社との違いを出せるのでしょうか。
サー・コリン(以下略):非常に多くの顧客が価格を見て決めるという事実は、いつも変わらずに目の前にあります。だが、航空旅行のような当たり前の商品でさえ、利用者の一部には、より優れたサービスに多少ともプレミアムを支払うことをいとわない人たちがいます。当社が顧客として引きつけ、維持していきたいと思うのは、そうした人たちなのです。とはいえ、ビジネスクラス、ファーストクラス、コンコルドで旅をしようという人たちだけを相手にしたいわけではありません。サービス企業の多くが、市場のすそ野にも優れたサービスに料金を支払おうとする顧客が大勢いるという事実を無視しています。
これが、結局は最後に利益に跳ね返ってくるのです。他社がしていない、あるいはできない付加的な何かを提供できれば、それに対してわずかなプレミアムを支払おうという顧客も出てきます。いま「わずかな」と言いましたが、まさにわずかな額を意味していると強調しておきます。当社の場合、平均で5%ほどのプレミアムです。ただ、当社の年間売上高50億ポンドに対する5%のプレミアムがあれば、2億5000ポンド、ドルでは4億ドルの増収になるのです。
どのサービスにもプレミアムを求めることができないのは確かですが、当社は、イギリス・アメリカ東海岸間の路線の大半を含め、国際市場のほとんどで成功を収めてきました。ロンドンのヒースロー空港とニューヨークのジョン F. ケネディ空港を結ぶ路線の競争は熾烈ですし、アメリカン、ユナイテッド、バージン・アトランティックなど、強力なライバルの競争力が拡大しているにもかかわらず、当社が利益と市場シェアを伸ばしているのは、そのためなのです。
さまざまな産業が、次々と、コストと価格に集中した企業間競争を行っているように思われます。アメリカ航空産業では確実にそうした状況になっているようです。こうしたアプローチについて、どう思われますか。
そのアプローチは誤りだと思います。アメリカ航空会社の大半は、さほど革新的でも創造的でもありませんでした。いま、アメリカ国内を飛行機で旅すると、国際線のどれと比較してみても、相当にひどい経験をすることになります。USエアと共同で大規模な調査をしたところ、アメリカには、家畜扱いをされないですむなら、プレミアムを支払ってもいいという人が多数いることを裏づけるデータが得られました。利用客は、尊重されたい、その航空会社を選んだことへの見返りがほしいと思っています。しかも、単なるフリークエント・フライヤー・マイル・プログラムなどではない見返りを望んでいます。フリークエント・フライヤー・プログラムは、いまや一般的商品となってしまいました。市場参入の代償というわけです。当社は、USエアを通じて、アメリカ航空業界を改革し、アメリカ市場に新たな一画をひらけると考えています。USエアは、新サービス"Business Select"を導入して、この戦略を実施に移し始めています。
事業方程式の両項に位置するのはコストと売上げです。どんな事業でも、その一方に重点を置くあまり他方を犠牲にすれば、大きなツケを払うことになるのです。自分の会社より他社のほうが上手に低コストで事業を運営すれば、当然、その会社は苦しい立場に陥り、何らかの対策をとらなければならなくなります。過去に築き上げてきた枠組みを崩さずとも、これが可能なのです。近年、事業環境が悪化したときも、当社は肉きり包丁で商品を削ぎ落とすようなことはしませんでした。むやみにコストを削減したり、ワインの質を下げたりもしませんでした。空港のラウンジへの投資、従業員トレーニングへの投資も中止しませんでした。中止するのは簡単なことでしたが、それでも投資を継続しました。なぜ、当社のビジネスクラスが好まれるのでしょうか。当社の商品が優れているからです。



