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今日の混沌とした市場でブランドの価値を保つことがいかに骨の折れる仕事であるかは疑う余地がない。IBMやアップルのような有力ブランドも、無名の互換機コンピュータ・メーカーと顧客獲得の競争をしなくてはならない。タイドやバドワイザーといった超優良ブランドでさえ、新興の競合メーカーからの脅威を受けている。事実、1990年代では、"Other"つまり「その他」に分類されるメーカーが数多くの製品市場において最大の成長率を誇る一群なのだ。
同時に、消費者は製品についてかつてないほど多くの情報を持ち、より多くの選択肢の中から製品を選ぶようになった。買い物の方法も多様化している。巨大なショッピング・センター、専門店、スーパーで買い物をするか、通販カタログやテレビのホーム・ショッピング、あるいはインターネット上で作動するバーチャル・ストアを利用するか。また、テレビ放送、ラジオ、コンピュータのオンライン・ネットワーク、インターネット、ファックスやテレ・マーケティング等の電話網を利用したサービス、専門誌等の活字媒体といった、増え続けるさまざまなチャネルを通じて、顧客にはありとあらゆる情報が降りそそぐ。選択肢の急増に伴い、顧客がますますブランド名に無関心になるのも無理はない。メーカーにとって、新しいブランドを確立することは、今や非常に困難な課題である。情報はメディアを通じて洪水のごとく押し寄せ、市場を創造し拡大するにはさらに長い時間がかかる。既存のブランドを守ることも決して容易なことではない。
しかし、ブランドをめぐる難問題には良い面もある。今日の市場をこれほど複雑にした最大の要因である情報技術は、ブランドを再構築する道具にもなりうる。高速通信、コンピュータ・ネットワーク、高度なソフトウエア等の革新的技術を使うことによって、企業は顧客とリアルタイムで対話をし、インタラクティブな(双方向の)サービスを提供することができるのである。技術に支えられた会話とサービスによって、企業は市場の混乱を切り抜け、顧客と強力な関係を構築することができる。
ブランド構築の今後の変化を理解するために、オランダの大手エレクトロニクス・メーカーであるフィリップスが、ヨーロッパでまもなく発売する子供用オンライン製品を開発した方法を例に挙げてみよう。フィリップスは、工業デザイナー、心理学者、文化人類学者、社会学者などの研究者を集めて車に乗せ、イタリア、フランス、オランダの諸都市に送り込んだ。彼らは、絶え間なく変化している顧客のニーズに応えるようなエレクトロニクス製品のアイデアを得るために、大人も子供も招き入れて議論した。フィリップスの社員たちの役割は、ボランティアで製品の企画を助けてくれるこのような人たちの調査をすることではない。むしろ、研究者たちと顧客が相互に影響しあってインタラクティブに新しい可能性を想像し、創造するための対話の手助けをしたのである。フィリップスでは、得られたすべてのアイデアを検討し、選択肢を狭め、そして一つの新しい製品に決定した。その後、研究者たちは、子供たちと議論をした都市へ戻って、決定した製品のアイデアを彼らに伝え、テストしたのである。
フィリップスが行ったような、顧客と直接コンタクトをとる方法は特別ユニークなものではない。多くの企業が気づいているように、新製品の開発段階における担当者と顧客の相互交流から得られる情報により、市場でその製品が受け入れられる可能性をより大きくする情報が得られるようになる。しかし、マーケティング担当者にとっては、この方法にはもっと深い意味がある。フィリップスのオンライン製品について助言をした子供たちは、製品が市場に受け入れられるよう助けただけでなく、その製品の潜在顧客にもなったのである。製品企画に参加するという経験を与えることは、顧客のロイヤルティを勝ち取ることである。現在、ほとんどの企業がごくひと握りの顧客にしかこうした経験を与えていない。マーケティング担当者にとっての課題は、情報技術を駆使して多くの顧客に対して同様の経験を創造し、与えることである。そうすることによって、企業は新製品が市場に受け入れられるまでの時間――私が「市場認知所要時間」(time to acceptance)と呼んでいるものだが――を短縮し、さらにはその製品の成功の可能性を高めることができるのである。
今日、マーケティングは、開発・製造プロセスの後に位置づけられている。企業は、市場投入時間、つまり、新製品を開発・製造し、市場に出すまでの時間の短縮化に専心している。そして、いったん新製品を市場に参入させたら、成功するか否かはマーケティング担当者の責任だと思っている。しかし、混み合った市場での成功を決定づけるのは、「市場認知所要時間」の短縮であって市場投入時間ではない。迅速に顧客を獲得できない製品は、すでに顧客を持っている製品には太刀打ちできない。市場認知所要時間の改善は、マーケティングを開発と製造のプロセスに統合することを意味する。そのためには、開発の段階で、できるだけ早い時期に潜在顧客を巻き込むことが必要である。
情報技術は、市場認知所要時間を短縮するだけではない。顧客のロイヤルティを育てる、つまり、ブランドを構築するためには、企業は常に顧客と対話をする必要がある。顧客と企業の対話は、開発プロセスの間だけに限らない。製品の仕様、製品に関する顧客の経験、そしてアフターサービスも、すべて顧客のロイヤルティに寄与する。企業は、常に顧客と対話をするだけでなく、市場の中のサプライヤー、ディーラー、および他の人々とも対話をし続けなくてはならない。そして、その対話を効果的に行うためには、これらの人々と企業を結び付ける技術が、生産管理システム、設計スケジュール、販売情報、あるいは競合情報等の企業内システムと統合されていなくてはならない。これらのシステムが統合されることによって、企業は顧客や市場とリアルタイムで相互交流することができ、さらに、顧客のロイヤルティの保持に役立つようなサービスの経験を製品に内包することができるのである。顧客との対話が、企業がブランドを構築する鍵となる。
マーケティングは、こうしたシステムを管理する責任を負わなければならない。リアルタイム・マーケティングの支持者は増えつつあるが(DHB1995年7月号、B. ジョセブ・パインⅡ世、ドン・ペパーズ、マーク・ロジャーズ著、「ワン・トゥ・ワン・マーケティング」参照)、顧客と効果的に対話をするためには、マーケティング組織の中でいかに劇的な変化が起こらなければならないかを、気づいている人は少ない。リアルタイム・マーケティングには、以下の要素が必要である。
□マーケティングを長い間支配してきた「宣伝・告知する」(ブロードキャスト)という意識を捨て、製品の開発および改善に必須の行為として、顧客の側から企業に接触する機会を提供し、顧客の行動を観察し、情報をフィードバックする姿勢を培う。
□顧客のロイヤルティをつかむために必要な、顧客満足度や、サポート・助力・ガイダンス・情報のリアルタイムな提供に重点を置く。



