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およそあらゆるビジネスにおいて、究極の目標とは、顧客一人ひとりとの関係の中に潜む収益の機会を確実にとらえていくことでなければならない。理由は単純明快だ。すなわち、顧客との関係から得られる利益こそが、あらゆるビジネスにとっての生命線なのだ。突き詰めていけば、この利益を増やすには3つしか方法はない。第1に新規顧客の獲得。すなわち、製品やサービスを利用する人口を増やすこと。第2に既存顧客の収益性を向上させること、すなわち、より高い利益につながる行動をするように仕向けること。第3に顧客と関わり合う期間を引き延ばすこと、すなわち前述のように仕向けた行動を、より長期にわたって持続させることである。にもかかわらず、現在、ほとんどの大企業の意思決定において、暗黙の前提となる経営理念(Business models:ビジネス・モデル)では、このような収益機会の完全な捕捉に焦点が当てられていない。なぜなら、これらの理念はそのような焦点の当て方が可能となる以前の産物だからだ。
工業化社会の成立以降、いくつかの重大な局面で、テクノロジーの発達と情報へのアクセスの増大が、新たな経営理念の発達を促した。たとえば、1800年代の中葉、工業化社会の到来によって、企業は『生産性(productivity)』という理念を求めるようになった。地方・全国を網羅する流通チャネルの誕生と製造業における技術革新によって、企業は地元市場にとどまらず、多くの顧客に向けて製品を大量生産することが可能となった。その結果、企業の収益性はその事業規模によって左右されるようになった。すなわち費用効率の良い生産と流通を実現する力である。この理念では、コストと生産規模がマネジャーたちの関心事となった。
しかし、1960年代後半から1970年代の初頭にかけて、戦後の荒廃から商業インフラが再構築され、国際競争が生じるにつれて、生産能力が需要を上回るようになった。そこで『競争力(competitive)』という理念を導入し、顧客からのキャッシュ・フローをめぐって争奪戦を演じなければならなくなった。業界やマーケット・シェアのデータが、初めて企業によって使われるようになり、そこでマーケット・シェアでの優位と収益性の間に強い相関があることを企業は知ることになる。かくして多くのマネジャーが、自社の属する業界で、マーケット・シェアをトップとすべく、躍起となりはじめた。
ビジネス環境が進化を続けるなか、1980年代の半ばに、『品質(quality)』という理念が生まれた。自社の製品やサービスの品質で競争を勝ち抜くため、企業は情報の収集・活用のための新しい能力を開発するようになった。継続的なプロセス改善技法を新たに導入することによって、やり直し、非効率、ムダによるコストを発見し、削減した。彼らはまた、システム全体のコストを削減し、顧客満足を向上させるために、仕入れ先や顧客のために発生するコストを分析するようになった。いくつもの業種において、品質という理念をうまく活用した組織は、マーケット・シェアは劣勢でも、他を凌ぐ業績を上げることが実証された。
それぞれの時代で、一般に広まった経営理念は、収益性に深い関連のある要素を忠実に反映していた。しかし、顧客との関係から得られる収益を最大化するということに、直接焦点を当てるのに必要な能力は、どこにも盛り込まれていなかった。今日、情報と手元の技術を駆使すれば、企業は、顧客との関係に投資したカネと、これら顧客によってもたらされた利益とを直接結び付けて考えることも可能だ。たとえば、収益性改善の余地が最も高い顧客を特定し、データベースを使ってこのグループ固有のニーズを把握し、フレキシブルな生産や配送を有効に活用して、製品の特長、値引き、サービス内容、保証など、各グループ向けに費用対効果の高い条件をあつらえて提示することが、はるかに簡単にできるようになっている。企業の全活動を統合し、顧客がもたらす収益の最大化に向けていくことができるのだ。
言い換えれば、今や企業は、我々が『価値交換(value exchange)』と呼ぶところのものを最適化できるようになっている。『価値交換』とは、企業が特定の顧客関係のために行う『投資』と、企業からの働きかけに応じて、その顧客が、それぞれの返答をすることでもたらされる『リターン(回収)』との間の関係である。
コンセプトとしての価値交換は新しいものではない。従来の経営理念を率先して導入した者が、他を上回るリターンを得ることができたのは、ターゲットとなった顧客との価値交換を向上させたからにほかならない。しかしこれら価値交換の向上は、生産性の向上、製品の差別化、高品質の実現といった努力の副産物にすぎない。価値交換そのものを目的として取り上げること、すなわち『価値交換』という理念(value- exchange model)の下に企業経営を行うことは、今日、初めて可能となったのである。
価値交換の原則を尊重する企業は、全く新しい地平に立って経営を行っている。これら企業は自社の業績を、前年度の実績や競合他社の成績との比較で評価したりしない。彼らはマーケット・シェアや品質規格、顧客満足度といった抽象的な数字に時間やカネをつぎ込んだりしない。彼らはまた、単に自社のマーケティング機能を増強するためだけに、情報技術の力を借りたりはしない。そうではなく、彼らはターゲットとする顧客基盤を定義し、これら顧客との関係から現在もたらされている価値と、そこに秘められた潜在的価値を完全に引き出せばどのくらいの価値が得られるのかを定量化する。そのうえで全社を挙げて、これら2つの価値のギャップを埋めていくのだ。
潜在収益と現在収益のギャップ
かなり控え目に見積もっても、大半の企業の現在の業績と、潜在的に達成できる業績の間には巨大なギャップがある。企業が顧客関係の収益力を増加させる、3つの方法を思い返していただきたい。そして以下の質問を考えてみていただきたい。
(1)貴社がターゲットとする顧客の何パーセントを、現在獲得しているか? どのくらいの顧客を『持ちうる』であろうか?



