1990年代の管理者が直面する基本的な問題は、柔軟性、革新性、創造性が要求される組織で、いかに適切な管理を行うかということだ。要求水準が高く、知識も豊富な顧客相手の、競争の激しいビジネスでは、社員が率先して、好機を探し、顧客のニーズに応えなくてはならない。しかし、ビジネスの機会をいくつも追求していくことは、過度なリスクにさらされたり、会社の信用に傷を付けることにもなる。

 最近話題になった、経営管理上の失策が招いた事例を検討してみよう。キダー・ピーボディ投資銀行は、トレーダーによる虚偽利益の計上により、3億5000万ドルの損害を被った。シアーズ・ローバック社の自動車サービス部門は、不必要な修理から得た利益に対する6000万ドルの損害賠償を行った。また、スタンダード・チャータード銀行は、不正な市場シェア操作に関わっていたことにより、香港市場での株式取引を禁止された。同様な事例はまだいくらもある。いずれの場合も社員が既存の管理機構を壊し、多大な損害を生じさせている。企業評価の低下、罰金、営業損失、機会損失、そして、危機の対処に追われて経営への集中が妨げられることなど、その損失は計り知れない。

 権限を委譲された社員が、自らの業務の再構築を迫られるなかで、上級管理者はいかにして管理レベルの低下を防ぎ、企業を守るのだろうか。はたして、企業家精神あふれる部下が、順調に行われているビジネスに損害を与えることはないと断言できるだろうか。一つの解決策は、1950~60年代に展開された官僚制における管理の基本に回帰することである。当時、管理者は部下に対し、仕事の進め方を直接指示し、間違いのないよう定期的に監視することにより、管理を遂行した。こうしたアプローチは現代のビジネスにとって、時代錯誤のように思えるが、必ずしもそうではない。能率と生産性のために標準化が大変重要な組立工場、貴重品盗難のおそれがあるカジノ賭博場、品質と安全性が生産上とくに要求される原子力発電所などでは、有効な管理なのである。

 しかし、動的で激烈な競争を展開している多くの企業において、部下の仕事を監視するために、管理者の時間とエネルギーのすべてを費やすことなど不可能だ。また、優れた人材の雇用、動機づけ、ベストを尽くせと社員に望むことで、管理ができると考えることも非現実的だ。管理されながらも、社員は主体的に仕事の進め方を見直し、顧客のニーズに応える新しい方法を生み出していく、その実現に努力するのが、今日の管理者なのである。

 創造性と管理の対立を調和させる方法は、特に難しいというわけではない。管理とは予測した目標達成を確実なものとするために、計画に対してどこまで進捗しているかを測ることであると、管理者は定義しがちである。しかし、このような限定的な意味での管理、つまりこうした数値診断による管理は、管理の一方法にすぎない。今日のビジネス環境において、他の3つの管理方法、つまり経営理念による管理、行動基準による管理、情報共有による管理も同様に重要である。

 社員の創造性の活用を図ろうとする管理者にとって、4つの管理方法はそれぞれ異なるねらいを持つものである。数値診断による管理では、重要な到達目標の効率的、効果的達成を確認できる。経営理念による管理では、個人に権限を委譲し、新しい機会の発見を促進させる。そして、何がコアとなる価値かを伝え、すべての関係者に組織目的の遂行を動機づける。行動基準による管理はビジネス上のルールを定め、社員の行動と避けるべきリスクを明確にする。そして、トップ・マネジメントは情報共有による管理によって、戦略上の不確実性に注力することができる。つまり、競争条件の変化に応じた脅威、機会を察知し、敏速な対応がとれるわけである。

数値診断による管理

 数値診断による管理は、飛行機のコックピットにある操縦機器の指針のような働きをする。それは、パイロットが異常な作動のサインを見て、危険を制御可能な範囲にとどめることができるのと同様な働きである。企業戦略上、重要な目標に対して、個人、部門、そして生産設備のそれぞれが、どこまで計画を達成できているかを管理者が調べるために、ほとんどの業種で数値診断による管理が用いられている。管理者は数値診断による管理方法に基づき、達成目標や利益率を調べ、目標に対する収益の伸びや、市場シェアの達成度を測る。定期的に生産量を測定し、あらかじめ設定された基準と比較する。フィードバックを行うことで、管理者は将来の生産量を達成目標に合うように調整できる。

 しかし、数値診断による管理は、いつも安定した管理の効果を上げられるとは限らない。実際に、この方法は、管理レベルの低下、さらには管理の失敗をも招きかねないほどのプレッシャーを生み出す。管理者は気づかないかもしれないが、権限を委譲された社員が到達目標の遂行に責任を負い、達成方法も任されている場合、そうした危険を内包している。特にその到達目標が困難であるほど、その危険は大きい。

 優れた顧客サービスで知られる大規模服飾小売業のノードストロム社が近年、時間当たり成果測定に関する一連の訴訟と調査報告騒ぎに巻き込まれたのは、そうした危険が現実化した一例である。企業家精神の旺盛な販売員の業績を測定するために使用されたその管理方法は、ノードストロム社の有名なサービス教育を支えている。しかし、その管理にはバランスが欠けており、模範的な顧客サービスとその濫用という双方を生み出す可能性が生じた。第一線監督者が時間当たりの成果を向上させるために、勤務時間を少なく報告するよう圧力をかけていたと主張する社員もいた。この訴えによる問題を解決するために、ノードストロム社は1500万ドルを費やした。