すぐれたマネジャーを生む動機となるものは何であろうか。これは非常に広範な問題である。好成績を上げて成功しているのが優秀なマネジャーだと言う者もいる――そしていまでは、たいていのビジネス研究者やビジネスマンは、自営の小企業の経営者を成功に導く動機が何であるかを知っている。彼らの成功のカギは心理学者が「達成要求」と呼んでいるもの、すなわち、いままでよりもっとうまく、もっと能率的に物事を達成したいという願望であることがわかったのである。成功を望む人間にとって、達成要求がいかに必要であるかを説明する書物や研究論文はいくらでもある。

 しかし、達成動機は優秀なマネジャーとどのような関係があるのだろうか。より効率的な仕事をしたいと強く求める人がなぜ優秀なマネジャーになるのか、その合理的な説明となる根拠は何もない。心理学者が達成動機と定義し、測定しているような、物事を達成したいという要求をだれもが持つべきだと言わんばかりに聞こえるが、達成要求が人を行動に導く方法は、必ずしも良好なマネジメントにつながるとは限らないのである。

 たとえば、達成動機にかられている人は自らの成績を上げ、自分でより良い仕事をすることを第一に考えるので、何でも自分でやりたがる。そのうえ、自分がしたことについて短期ごとの具体的なフィードバックをして、いかに自分が良い成績を上げているかわかるようにしたいと思う。だが、特に大規模で複雑な組織のマネジャーは、成功に必要な業務のすべてを自分でできるわけではない。部下たちを動かして組織のために働かせなければならないのだ。しかも、業務が大勢の人間に分散されているので、マネジャーはそのつど自分でフィードバックなどせずに、物事を進めていこうという意思がなければならない。

 マネジャーの仕事は、一人で良い成績を上げられる者よりも、人を動かせる者に向いているようである。したがって、動機づけの点から言えば、達成要求よりもパワー要求の強い人がマネジャーとして成功するものと期待できる。しかし、優秀なマネジャーになる人は、単にパワー要求だけでなく、他の資質も備えているにちがいない。そこで本稿では、それがどのような資質で、どのように相互に関連しているかを考察してみたいと思う。

 マネジャーを動機づける要素を測るために、我々はアメリカの各種の大手企業のマネジャーで、マネジメント効果を高めるためのワークショップに参加した人びとを調査した(このワークショップの方法については、88ページの「ワークショップ・テクニック」を参照)。その結果得た結論は、会社のトップ・マネジャーは高いパワー要求を持たなければならない、ということである。つまり、入を動かすことに関心を持つということである。しかし、このパワー要求は、マネジャー個人の権力拡大を目指したものではなく、組織全体の利益になるように律し、コントロールしなければならない。さらに、トップ・マネジャーは人に好かれたいという欲求よりも強いパワー要求を持たなければならないのである。

ワークショップ・テクニック

 本文で使われているケース・スタディやデータは、我々が行った数多くのワークショップから採用した。これらのワークショップでは、各社のエグゼクティブが自分のマネジメント・スタイルやその能力を知り、自分をいかに変えるべきかを学び取った。また、どのような動機づけのパターンが最上のマネジャーを生む要素になるかを研究する機会にもなった。

 ワークショップと本文で、我々は「達成要求」「パワー要求」「親和要求」といった専門用語を使っている。これらの用語は、グループや個人の動機を示す測定可能な要素のことをいう。

 簡単に説明すれば、マネジャーが以前よりも成績や能率を上げることをどのくらいの頻度で考えているか(達成要求)、他者と友好的な関係を確立し、維持することをどの程度考えているか(親和要求)、他人を動かし、影響を与えることをどの程度考えているか(パワー要求)という質問に即答させて、特徴を得点に出したものである。ここで言うパワー(権力)とは、独裁的な権力のことではなく、どれほど強い立場で、影響力を行使できるようになりたいかという問題である。

 マネジャーはワークショップに来ると、まず自分の職務に関する質問用紙に回答を記入する。各参加者は自分の職務を分析し、何を要求されていると考えているかを説明する。それから、さまざまな仕事の場面を示す絵について物語を書かされる。その物語を本人が達成、親和、パワー要求にどれほど関心を持ち、抑制性を備えているかという観点からコード化し、得点を出す。その結果を全国基準と比較する。

 各個人の職務上に必要とされる条件と、本人の動機づけのパターンとの差異を分析して、その人間が適正な職務についているか、さらに昇進する可能性があるか、現在の地位にかなうように自らを変えられるか、といった点を評価することができる。

 さらに、ワークショップの参加者がどのようなマネジメント・スタイルをとっているかを探るために、彼らに質問表を渡して、職場で実際の場面をどのように処理しているか、答えを選択させる。マネジメントのスタイルとしては、民主的、親和的、示範的、コーチ的、威圧的、独裁的という6つのタイプがある。参加したマネジャーに各スタイルの効用について感想を書かせ、自分が好むタイプを選ばせる。

 各マネジャーがどれだけ効果的なマネジメントをしているかを判定するには、部下たちにマネジャーのやり方について質問調査するのも一つの方法である。

 そこで、すぐれたマネジャーが備えている特徴を割り出すために、ワークショップに参加した各マネジャーの部下3人ずつに対して、次の6つの判断基準に従って上司の性格が浮かび上がるように、仕事の場面に関する質問をした。

(1)上司が要求する規則にどの程度従っているか、(2)どの程度の責任を委譲されていると思うか、(3)所属する部門では業績の基準をどれほど重視しているか、(4)成績のよしあしに対する賞罰はどのようになっているか、(5)職場の組織手続きはどの程度明確になっているか、のチームへの帰属意識はどの程度か【1】

 こうした質問調査によって、部下からモラールについて(組織の明確性とチームへの帰属意識)最高の得点を得たマネジャーが最も優秀なマネジャーで、最も望ましい動機づけパターンを備えていると判定された。

 さらに6カ月後に同じ部下たちに質問調査をして、マネジャーがワークショップを修了したあと、モラールの得点が向上したかどうかを調べた。

 さらにもう一つ優秀なマネジャーになるために重要と思われる性格的特徴として、参加したマネジャーがどの程度円熟した人間であるかを調査した。マネジャーが書いた物語から、権威に対する姿勢と、特別の問題に対したときの感情の示し方を読み取ることができるので、それによってそのマネジャーが4段階の円熟の程度のどの段階にいるかを判定することができた。第1段階の人は他人の力に頼って、指導してもらいたいと思っている。第2段階の人は主として自律に関心を抱いている。第3段階の人は他人をうまく操作したいと思っている。第4段階の人は利己的な欲望を捨てて、献身的に他人に尽くしたいと思っている【2】

 本文で示した結論は、アメリカの企業25社のマネジャー500余名が参加したワークショップのデータをもとにしたものである。図に示したのは、このうちの一社の例である。

【1】G. H. Litwin, R. A. Stringer共著"Motivation and Organizational Climate"(Boston: Division of Research, Harvard Business School, 1966)による。
【2】 Abigail Stewartの研究による。David C. McClellandの"Power: The Inner Experience"(New York: Irvington Publishers, 1975)に報告されている。

マネジメント効果の測定

 優秀なマネジャーは達成要求よりもパワー要求を強く持っているとは、どういうことなのだろうか。大手アメリカ企業のセールス・マネジャーで、今回のマネジメント・ワークショップに参加したケン・ブリッグスを例にとって考えてみよう。ケン・ブリッグスは6年ほど前に本社の管理職に昇進し、同社の売上げに最大の貢献をしている販売員のマネジメントを担当していた。

 ワークショップでの質問調査表に記入された内容を見ると、ケンが自分に必要とされている職務を正しく把握していることがうかがえた。すなわち、自分で新たな目標を達成したり、部下と親しく交わることよりも、部下を動かして成功に導くことが自分の職務だと答えていた。しかし、ワークショップの出席者はマネジメントの状況を描く物語を書くように求められるのだが、そのときに彼が描いた物語から、実際には質問調査に答えたような点にあまり関心を払っていないことが、無意識のうちに暴露されたのである。実際は、彼の達成要求は非常に高く――100を最高とした統計で90パーセンタイル【訳注(1)】以上――、パワー要求が非常に低い――15パーセンタイル――のだった。ケンの達成要求が高いのも当然ではあった――だからこそ、彼はセールスマンとして成功を遂げたのである。しかし、部下を動かすことへの関心は、職務に必要とされるレベルより明らかに低かった。ケンはいささか狼狽したが、測定の方法が正しいわけではなく、理想と自分のスコアとの差は見かけほど大きくないのだと思い直していた。

 やがて、本当にショッキングな事実を突きつけられることになった。ケンの部下たちは彼が物語に暴露されたとおりのマネジメントをしていることを認めたのである。つまり、彼はマネジャーの資質に欠けていて、部下たちを動かすほどの影響を与えていないというのである。部下たちは責任を任されていないと思っているうえに、努力を褒めてもらうどころか批判ばかりされ、職場の統一もとれておらず、混乱していてわけがわからないというのが部下たちの評価だった。こうした評価基準のすべてで、ケンの部署は全国基準に対して、10から15パーセンタイルという低いレベルだった。

 ワークショップのリーダーと2人だけで検査結果について話をしているうちに、ケンはますます狼狽した。しかし、最後には、こうした結果がじつは彼が懸念しながらも、自分でも他人に対しても認めたくなかった気持ちを実証したものであると打ち明けた。かねてから彼はマネジャーという役割を担いながら惨めな思いをしていたのだが、いまその理由がわかったのである。彼は部下を動かし、部下を管理することは気が進まなかったし、実際にできなかったのだ。思い返してみると、彼はスタッフを思いどおりに動かそうとするたびに失敗し、ますますうまくいかなくなったように感じていたのだった。

 ケンは、失点を取り返すために、非常に高い基準を設定し――この点では彼の部署は98パーセンタイルであった――たいていの仕事を自分でやろうとしてきたが、それはほとんど不可能に近い状態になっていた。彼が何もかも自分でやってしまって部下に任せないために、部下はやる気をなくしていたのだ。ケンの経験例は、達成要求が強く、パワー要求が低い人の典型である。こういうタイプの人はセールスマンとして非常な成功を収める可能性が高く、その結果管理職に昇進するのだが、皮肉なことに、その管理職は彼らには向かないのである。