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ビジネスは、掛け金の高いゲームだ。ビジネスにおいて用いられる言葉は、軍事用語やスポーツの専門用語が多く、そのことがこのゲームの持つ特徴をよく反映している。しかし、それらの中には誤解を招くおそれのある言葉もある。戦争やスポーツと違って、ビジネスは勝ち負けを争うものではない。また、どれだけゲームを上手に行うかでもない。企業は、他社の失敗がなくとも劇的に成功することができる。しかし、正しくゲームを行っていなければ、どれだけ上手に取り組んでも惨めな失敗に終わるかもしれない。
ビジネスが成功するかどうかは、確実に正しいゲームを行えるかどうかにかかっている。それならば、どうやって正しいゲームかどうかを見分けることができるのだろうか。間違ったゲームだと気づいたときに何ができるのだろうか。ここでは、経営者がこれらの疑問に答えていく手助けとなるように、ゲーム理論を利用したフレームワークを明らかにする。数学の一部として50年を経過したゲーム理論は、いま、ビジネスにおけるゲームを変えようとしているのである。
ゲーム理論は1994年に3人の創始者がノーベル賞を受賞してから、より広く知られるようになった。天才的数学者フォン・ノイマンと経済学者のオスカー・モルゲンシュテルンが『ゲームの理論と経済行動』を著したのが1944年であり、これがゲーム理論の始まりとなった。この共著は、今世紀で最も偉大な業績の一つとされた。それは、将来の帰結がお互いの行動に依存している状況における企業や消費者などの行動を、体系的に理解する方法を示したのである。フォン・ノイマンとモルゲンシュテルンは、ゲームを2つのタイプに分類した。最初のタイプは「ルールに基づいたゲーム」であり、プレーヤー(訳者注:ゲームに参加している企業や個人をまとめてこのように呼ぶ)は、ある特定のルールに基づいて相互に影響を与える。これらのルールとは、取引契約、貸付契約、貿易協定のようなものである。第2のタイプは、「ルールのないゲーム」である。プレーヤーは何の制約もなしに行動し、互いに影響を与えるのである。たとえば、売り手と買い手とが通常の流通機構を介さずに取引をすることによって、利益を得ることができるかもしれない。ビジネスは、この2種類のゲームが、複雑に混ざり合ったものなのである。
「ルールに基づいたゲーム」においては、ゲーム理論がその原理を教えてくれているように、すべての行動に対して反応がある。しかし、それはニュートンの第3の法則のようなものではない。つまり、反応が、大きさの等しい正反対の方向のものである必要はないのである。こちらの行動に対して他のプレーヤーがどのように反応するかを分析するためには、自分の行動に対する他のプレーヤーの可能な反応すべてを考えなければならない。また、それに対するこちらの可能な反応すべて、さらにそれに対する他のプレーヤーの反応というように、できるだけ先の先まで考える必要がある。自分の最終的な目的を達成するために、今どの行動をとるべきかを見つけ出すためには、先の先まで見て、そこから論理的に判断しながらゲームをさかのぼってくる必要があるのだ(1)。
「ルールのないゲーム」においては、やはりゲーム理論がその原理を示してくれているのだが、自分がそのゲームに持ち込んだ以上のものは獲得できない。ビジネスにおいて、あるプレーヤーがそのゲームに持ち込むものとは何であろうか。この答えを見つけるためには、以下のようにすればよい。まず、すべてのプレーヤーがゲームに参加したときにつくり出される価値を計算する。次に、ゲームからその特定のプレーヤーを取り除いて、残りのプレーヤーがどれだけの価値をつくり出せるかを計算する。その差が、その特定のプレーヤーの持つ「付加価値」である。制約のない相互作用においては、自分自身の付加価値以上のものをゲームから獲得することはできないのである(2)。
両方の原理の基礎をなしている重要な点は、ゲームを見る方法である。多くの人は、ゲームを自己中心的にとらえる。つまり、自分の状態に焦点を置くのである。しかし、ゲーム理論が教えてくれることは、他のプレーヤーに焦点を置くことの重要性、すなわち他者中心主義である。先の先を見て論理的にさかのぼってくるためには、こちらは他のプレーヤーの立場に立って考えなければならない。自分の付加価値を評価するために、他のプレーヤーが自分に何を与えてくれるかを問うのではなく、自分が他のプレーヤーに何を与えることができるかを問わなければならないのである。
経営者たちは、このゲーム理論から得られるものを利用することによって、利益を得ることができる。それを利用して、彼らの会社にとって正しいゲームをつくり出せばよいのである。ゲーム自体を変更することによって得られる報酬は、現状を維持することによって得られる報酬よりも、ずっと大きいものとなる。
いくつかの例を示そう。任天堂はソフトウエアの市場をコントロールすることによって、テレビゲーム産業の状況を変化させることに成功した。セガが続いて成功するためには、再度ゲームを変更する必要があった。ルパート・マードックのニューヨーク・ポストも、新聞業界のゲームを変更することに成功した。実際に価格競争を始めるのではなく、その見本を示す方法を発見したのである。携帯電話産業においては、ベルサウス社は、クレイグ・マッコウとリン・ブロードキャスティングとの間の乗っ取りゲームを変更することによって、利益を得ることができた。
ビジネスを成功させるための戦略とは、ただ単に自分が発見したゲームを行うことではなく、自分が行うゲームを自分自身がつくることなのである。我々は、これらの例が実際にどのように起こったのかを示していくことにする。まず、ゼネラル・モータース社(GM)がどのように自動車販売のゲームを変更したのかということから見ていくことにしよう。



