企業は収益機会を創出・開発するために資本投資を行う。たとえば、研究開発への投資は、特許や新技術に結びつき、収益機会への道を開いてくれる。新工場の建設やマーケティングへの支出を通じて特許や技術の商業化に成功すれば、収益機会を得ることができる。

 このような事例と比べるとわかりにくいが、赤字を出している事業を閉鎖する企業も、これまた投資を行っている。企業が契約関係を解消するために必要な支出、たとえば退職金のようなものは、初期投資だと見なすことができる。投資からの「見返り」は、将来発生する損失の軽減ということになる。

「投資機会」とはオプションと同義である。ここでいうオプションとは、将来において何らかの行動をする権利(義務ではない)のことをいう。資本投資とは本質的にオプションにかかわる問題である。

 ここ数年間、我々を含む経済学者たちは、資本投資にはオプション的な性格があることについて、研究を深め、投資をオプションとして見なすことで、資本投資に関する意思決定における理論・実践で大きな変化が起きることを発見した。

 これまでビジネス・スクールでは、「投資の意思決定というものは、条件が変わったときには撤回することができるものである。逆に、仮に撤回できないとしたら、その投資は『今やるか、もしくは二度とできないか』という性格の提案である」という前提に立って企業経営を行うようにと経営者たちに教えてきた。

 しかし、投資機会をオプションと見なしたとたん、この前提は変わってくる。撤回不能性(irreversibility)、不確実性、タイミングの選択といった要素が投資の意思決定をドラスティックに変えるからである。

 本論文の目的は、伝統的な投資の意思決定アプローチの欠点を検証し、投資の意思決定のためのより柔軟なフレームワークを提示することである。

 いかなる投資理論も、「将来の市場環境に関する不確実性に直面している企業経営者は、新しい投資プロジェクトに投資するか否かをどのように決定すればよいのか」という疑問に答える必要がある。

 ほとんどのビジネス・スクールでは、この疑問に対するための単純なルールを、将来経営者となる学生たちに次のように教えている。

 それは、①まずその投資が生み出すであろう利益の現在価値を計算する、②次にそのプロジェクトに着手することで必要になる支出の現在価値を計算し、③最後にその2つの差を計算して投資の正味現在価値(NPV/Net Present Value)を計算する、という手順を取る。そして、投資の意思決定のルールは、計算されたNPVがゼロより大きければ、投資を行うべしというものである。