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顧客に対する特典制度を経済記者は蔑んできた。やれ安っぽい販促方法だ、目先だけの奇抜な代物だ、タダでモノをくれてやっているだけだといった具合だ。にもかかわらず、この種の特典が世に出てから、かれこれ10年以上になり、その風潮に乗る企業の数は増えこそすれ減ることはない。フリクエント・フライヤー(高頻度利用客)優遇制度を提供する航空会社に始まって、通話量に応じて料金を割り引く電話会社に至るまで、何百万ドルというカネが顧客特典の開発と運営に費やされている。
これらは企業の利益にかなう、筋の通った話なのだ。特典制度によって、顧客のロイヤルティ(製品/サービスに対する固定化)が確立される。ほとんどの企業が、このロイヤルティがいかに重要なものとなりうるかを認識している。フレデリック F. ライクヘルドとW. アール・サッサー・ジュニアがその論文、『顧客維持率向上で高収益を目指す サービス産業のZD運動』(DHB1991年1月号掲載)で指摘したように、企業にとって、最も固定化した顧客こそ、最も収益に貢献するものなのだ。年を経るにつれ、顧客との関係維持にかかる費用は低下していく。ロイヤルティが成熟する最終期には、固定客によってビジネスが支えられるようにまでなっていく。より多くの商品を購入し、プレミアムが付いた価格も惜しまず、クチコミで新しい顧客を連れてくるようになる。
しかし実態は、特典制度の多くが誤解されており、間違った使い方をされている。特典制度を計画し、実施する段になると、特典を短期的な販促用景品や、月替わりのおすすめ商品と考えてしまう企業があまりにも多い。新規あるいは既存の顧客に、自社製品やサービスを試す気を起こさせるという意味では、このようなやり方でもそれなりの価値はある。しかし特典がロイヤルティを形成するように組み立てられているのでなければ、せいぜいそこに秘められた価値のほんの一部しか発揮されないのである。
特典制度は、1年、2年しか付き合いのない顧客にも、その企業にとって最も収益性の高い10年目の顧客のような行動をとらせ、ロイヤルティの熟成を促す。しかしそれは、より巨視的なロイヤルティ・マネジメント戦略の一部として組み立てられ、実施された場合の話だ。顧客のロイヤルティが自社にもたらす価値に応じて、企業は、顧客との価値共有の方法を見出さねばならない。顧客が常にロイヤルティに対して見返りがあることを理解し、それを得ようという気にさせるシステムを開発することを目的としなければならない。何年にも及ぶ、持続的なロイヤルティを獲得するためには、戦略的かつ継続的なアプローチが必要となる。
利用者特典の原則
昔ながらの商売の中には、顧客との価値共有によってロイヤルティを確立する絶好の見本がある。近所で評判の商店や飲食店は、効果的な特典の背後に、もっと大きな戦略的目標があることを、昔から直観的に理解していた。このような店の主人は、得意客と個人的に親交を深め、特別なサービスや気配りを通じて、その愛顧に応えることを大切にしてきた。欲しがっていた商品が到着すればそれを知らせたり、特別にお茶やデザートを出したりといったようなことだ。これら商店主は、儲かる顧客に、より大きな価値を与えることで、彼らを固定客として取り込む術を知っており、また長い間にはこれら固定客が、さらに大きな利益をもたらすことも知っているのだ。
しかし企業規模が大きくなり、複雑化するにつれ、どの顧客が最も大切かを見極める力はガクンと落ちてしまう。この問題は営業や顧客サービスを担当する従業員の離職率が高いとさらに悪化する。顧客との親身な関係と、それゆえに鋭くなる価値共有に対する嗅覚が失われてしまうのだ。
市場シェア、規模、効率性を追求する大企業では、データベース・マーケティングや高度なマーケット・リサーチで重要な顧客を把握し、失われたパーソナルな関係を取り戻そうとする。しかし企業がこうした投資の元を取るには、効果的に顧客と価値を共有する、以下の原則に留意しておかねばならない。
顧客はすべて同質ではない
ロイヤルティのご利益にあずかるためには、顧客はすべて同質ではないということを認識しておく必要がある。ロイヤルティと収益性を最大化するためには、企業は最良の顧客に最高の価値を与えなければならない。すなわち、ある企業に対し、より多くの利益をもたらす顧客は、その企業が生み出した価値の恩恵に浴してしかるべきだということだ。結果として、こうした顧客はさらにその企業への愛顧を深め、収益に貢献する顧客となっていくであろう。
たとえば、得意客には特別価格でご奉仕という会社もあるだろう。クレジット・カード会社では信用度が高く、支払い履歴が良好な顧客に対しては、金利を抑えることも多い。契約期間が長く、事故履歴も良好ならば、ステート・ファーム保険会社は、自動車保険に個人割引を適用するだろうし、逆に問題のあるドライバーについては、他社と価格で張り合うようなことはせず、取引を避けるようにする。したがってステート・ファーム保険会社の競合会社は、残りものの、魅力の薄い顧客を相手にしなければならなくなる。
残念ながら、ほとんどの企業では、顧客を無造作にすべて一律に扱い、彼らの利用額や取引期間を考えずに、均質な製品を与えている。だれに対しても平均的な製品やサービスを提供するような企業は、あまり儲からない顧客に過剰サービスをする一方で、より大切な愛用客には不満を残し、資源を浪費しているのである。結果は明白だ。より多くを期待し、より魅力ある選択肢を求める優良顧客は脱落し、招かれざる客ばかりが残ることで、その会社の利益は蝕まれていくのだ。



