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ビジネスにおける最も普遍的なパターンの一つは、技術や市場が変化したときに、リーダー企業が業界内でのトップの座の維持に失敗することである。グッドイヤー社やファイアストーン社のラジアルタイヤ市場への参入は、あまりにも遅きに失した。ゼロックス社は、むざむざとキヤノンが小型複写機の市場を創造するに任せた。ビュシラス・エリー社は、キャタピラー社とディーア社が機械式エキスカベーター(掘削機)市場を制覇するのを許した。シアーズ社はウォルマート社に屈服した。
こうした失敗のパターンは、とりわけコンピュータ産業においては衝撃的である。IBMは、メインフレーム市場を占有していたが、後年の、技術的にはメインフレームより単純なミニコンピュータの登場を見逃した。デジタル・イクイップメント社は、そのVAXアーキテクチャーに見られる技術革新によってミニコン市場を制圧したが、パーソナル・コンピュータ市場は完全に捉え損なった。アップル・コンピュータ社は、ユーザー・フレンドリーな情報処理の標準を構築することによって、パーソナルな情報処理の世界をリードしたが、ポータブル・コンピュータの市場投入では、リーダー企業から5年の後れをとった。
これらの企業が、現在の顧客を維持するのに必要な技術に対しては、極めて積極的に投資し、しかも成功しているにもかかわらず、将来の顧客が望むと思われる技術に対する投資では失敗するのはなぜだろうか。官僚主義、思い上がり、経営幹部の活力の枯渇、貧弱なプランニング、近視眼的な投資姿勢などが、いずれも幾分かの役割を果たしているのは間違いない。しかしそれよりもはるかに根源的な理由が、パラドックスの中心に存在している。つまりリーダー企業が、企業経営の最も普遍的かつ有益なドグマの一つに陥りやすいのが原因である。それは顧客志向である。
大部分の経営者は、自分が事態を掌握していると考えたがるものだが、実際には顧客が会社の投資の方向を誘導するうえで及ぼす影響力には絶大なものがある。ある技術を立ち上げ、製品を開発し、工場を建て、新たな流通チャネルを構築する決定に先立って、経営者はまず顧客の意向を測らねばならない。顧客はそれを望んでいるか。市場の規模は。その投資に収益性が期待できるか。経営者がこれらの設問とそれに対する解答を明敏に行えば行うほど、彼らの投資はそれだけ完全に顧客の意向に沿ったものとなる。
これこそ経営体制の整った企業の当然の経営方法である。しかしこれは正しいのだろうか。仮に顧客が、新しい技術や製品コンセプト、事業の進め方は、会社の現在のアプローチに比べて自分たちのニーズに適切に応えていないとして、これを拒否したらどうなるか。大型のフォトコピー・センターを中核とするゼロックス社の顧客ベースにとっては、小型・低速の卓上複写機は、当初は何の役にも立たないものであった。ビュシラス・エリー社の大型バケット蒸気およびディーゼル動力ケーブルショベルを信頼していた掘削業者は、当初は小型で脆弱だった油圧エキスカベーターを望まなかった。IBM社の商用、政府用、産業用の大手顧客にとっては、ミニコンは当面は何の用途もなかった。これらの例のいずれについても、会社側は顧客の声に耳を傾け、彼らの望む性能を持つ製品を与え、そして結果的には、顧客の意見に従って無視したまさにその技術によって地歩を失ったのである。
筆者たちは、技術変化に直面した様々な産業のリーダー企業について、現在も継続中の研究において、このパターンを繰り返し見てきた。この研究では、適切に経営されている既成の安定企業は、部分的な改良から全面的に新規のアプローチに至るまで、新技術の開発とその商業化については、それが彼らの顧客の次世代の性能ニーズに適合している限りは、ほとんどの場合、一貫して業界をリードしていることを示している。ところが、中枢顧客のニーズに当初は合致せず、単に小規模かつ萌芽段階の市場にしかアピールしない新技術の商業化については、ほとんどの場合、同じこれらの企業が先頭に立つことはない。
経営体制の整った企業のほとんどがすでに開発済みの、合理的かつ分析的な投資プロセスを用いた場合、資源を、既成の安定市場における既知の顧客ニーズから、一見重要でない、あるいはまだ存在しない顧客に転換するような形の、説得力のある計画を出すことは不可能に近い。結局、既成顧客のニーズに応えて競合企業を駆逐することは、企業の持つ資源のすべて、いやそれ以上を投入せざるをえないものなのである。適正経営を行っている企業が、顧客ニーズを特定し、技術の趨勢を予測し、収益性を評価し、競合する投資提案の間で資源を配分し、そして新製品を市場に投入するために用いるこのプロセスは、現在の市場と顧客に焦点を絞ったものとなっているが、それにはいずれも正しい理由が背景にある。このプロセスはもともと、顧客のニーズに合わない製品や技術の提案を排除する仕組みになっている。
事実、企業がその主力顧客への傾注を維持するために用いているこのプロセスとインセンティブは、それがあまりに有効に機能するため、これらの企業は、新たに登場する萌芽市場における重要な新技術が見えなくなってしまう。中枢顧客のニーズに当初は合致しない新技術を無視してしまう危険性を、身にしみて学んだ企業は少なくない。例えばパソコンは、1980年代に主流であったミニコン・ユーザーの要求に合うものではなかったが、このデスクトップ機の処理能力は、処理能力に対するミニコン・ユーザーの要求度をはるかに上回るペースで進歩した。この結果パソコンは、ワング、プライム、ニクスドルフ、データ・ゼネラル、そしてデジタル・イクイップメント社の多くの顧客の処理能力ニーズに追い付いてしまった。今日ではパソコンは、多くのアプリケーションについてミニコンと競合可能な性能に達している。ミニコン・メーカーにとっては、中枢顧客に集中し、一方で萌芽市場における見かけ上は重要でない顧客を対象とし、当初は性能の低かったデスクトップ技術を無視することは論理的な決定であったのだが、結果的には破滅的な決定でもあったのである。
既成の安定企業に打撃を与えるこうした技術変化は、通常は技術的見地からすれば極端に新規なものでもないし、困難なものでもない。だがそれは2つの重要な特性を持っていることに留意すべきである。第1に、これらは一般に異なる組み合わせの性能特性を提供しており、同時に、少なくとも当初は既存の顧客からは評価されない。第2に、既存の顧客が評価する性能特性は、後にその新技術が既成の安定市場に侵入できるようになるほどのペースで進歩する。この時点で初めて、中枢顧客もその技術を求めることになろう。既成の安定企業にとって不幸なことに、たいていの場合そのときにはすでに遅すぎる。その新技術のパイオニア企業が市場を制圧してしまっているのである。
したがって次には、上級幹部にこの部類に属すると思われる技術に、最初にスポットを当てる能力が要求される。次に経営幹部は、その新技術の商業化と開発のためには、既成の安定顧客を重視する方向に向きがちなプロセスとインセンティブからそれを守らねばならない。そしてそれを守る唯一の方法は、中枢事業から完全に独立した組織を新規に創設することである。



