企業戦略に基づいて企業の構造が形成される。企業の構造を支えるものはシステムである。この一連の簡明な理念ほど、欧米の産業界に深く浸透してきたものは、ほかには見当たらないであろう。それは、今日の大手企業の組織構造に影響を及ぼしているばかりでなく、トップ・マネジメントの役割をも、明確に定めている。

 しかし、この理念やそれをもとに形成された経営原理は、今日ではもはや適切ではなくなった。つまり、この理念に沿って定められた経営陣の職務は、今日のニーズに対応できなくなったのである。今日の大手企業の経営者は、戦略、構造、システムを超えて、目的、プロセス、そして人材に立脚する組織体制への移行を迫られている。

 ところで、現在でも多くの経営者の役割についての解釈の根拠となるコンセプトは、1920年代に形成されたものである。当時ゼネラル・モーターズ(GM)のアルフレッド・スローンをはじめ、数人の企業家が〝多角化〟という新戦略を打ち出した。これらのパイオニアたちは、事業部制という構造が多角化に役立ち、それを支えるのは精密なデザインに基づく、計画と管理のシステムであることを発見した。

 それ以来、戦略・構造・システムの連結関係は、信条となって、MBA(経営管理学修士)プログラムのデザインに反映され、経営コンサルタントのリポートに強調され、世界中の企業経営者の行動や思考の指針として、根を下ろしていった。企業のトップレベルのマネジャーは、自らを戦略のデザイナー、構造の設計者、そして自社を導き推進するシステムの管理者と考えるようになった。

 その後何十年間にわたって、この考え方は企業の成長に寄与した。その間企業は、1950年代の垂直統合化、1960年代の多角化、そして1970年代と1980年代初期のグローバル市場への拡張と、相次ぐ上昇気流に乗って発展を遂げた。

 しかし、過去10年間はテクノロジーの進展、競争の激化、そして市場の変化などによって、その効果にかげりが見えてきた。例えば、アメリカのGMやIBM、ヨーロッパのフィリップスやダイムラー・ベンツ、日本の松下電器や日立のような多角化企業が抱えている諸問題は、少なくとも部分的には、これらの企業のトップが、あまりにも長く、ひたすらこの理念を追求してきたことに起因するものといえよう。

 戦略・構造・システム体制の威力と致命的な欠陥は、その目標、つまり人間のビヘイビアの特異性をできるだけ抑えるような経営システムをつくろうとする点にある。この考え方によると、戦略・構造・システムの3要素が適切にデザインされ、効果的に具体化されるなら、人材は、置き換えできる〝部品〟であると見なして、巨大な複合組織を経営できるとされた。

 しかし、やがて企業規模が拡大し、多角化が進むにつれて、戦略・構造をはじめ、リポーティングやプランニングのシステムは、ますます複雑になった。その結果、社員の日々の行動の細分化やシステム化が、いっそう進展していった。

 第2次大戦後の恵まれた高度成長時代には、戦略・構造・システムは、企業経営に極めて重要な規律、目標および管理などを生み出した。しかし今日では、企業を取り巻く経済環境は変化し、大多数のグローバル企業は、生産過剰と競争激化に常時さらされている。

 テクノロジーと市場の集中化によって、企業間の境界線がはっきりしなくなり、既存企業が競合する市場に、新たな成長のチャンスが生まれる。そして、特に注目すべき点は、最も乏しい経営資源は、トップが管理する資金よりむしろ、第一線で働く社員の知識と技能であるケースが多い。