ここ3年間、我々は繰り返し繰り返し、産業社会が1945年以来の最悪の危機を迎えていると聞かされてきた。伝統的な経済刺激政策は働かず、次々と出されるOECDの経済成長予測である〝エコノミック・アウトルック〟は常に下方修正された(唯一の例外はいちばん最近の94年7月に出された半期予測で、これは上方修正された)。長く待ち望んでいた、景気回復へのはずみが始まった現在でさえ、例えば雇用といった重要な部分で、経済の強さを感じることができない。事実、OECDの〝エコノミック・アウトルック〟は、すでにみんなが知っていることを再確認したにすぎない。欧州における失業率は1995年までは上がり続けるということだ。

 現在の状況は、景気循環の危機に直面しているように思えるかもしれないが、本当のところ、我々は単なる経済危機ではなく、世界的な経済変革の真っ只中にいる。別の言い方をすれば、産業社会は過去3年間、2つの特筆すべき出来事の衝撃に直面しているのだ。

 まず、景気循環の危機という点から考えてみよう。もちろん、アメリカ経済は景気の底を打ったし、ヨーロッパも同じように回復基調に動きつつある。速度の差こそあれ、すべての先進諸国は景気回復に向かい、いずれ、過去20年間で最悪と言われた不況から脱出するだろう。アメリカは堅実な成長に戻り(今年は4%成長と予測されている)、カナダやイギリスも同じようなものだろう。ドイツやフランスも第2・四半期から、予測されたよりもずっと強い経済の足取りを示し、日本も最悪の時期はすでに脱したようである。

 しかしながら、このような景気回復が雇用の改善に結び付かないのは、単なる景気循環の危機以上のものが、その根底にあることを示している。このような状況は〝職なし景気回復〟(ジョブレス・リカバリー)とも、〝松葉杖の回復〟(リカバリー・オン・クラッチーズ)ともいわれる。なぜなら現行の成長率も、予測される成長率も、大きな雇用回復に結び付くのには不十分に思えるからだ。先進諸国で失業率を大幅に下げるためには、過去20年間の平均成長率である2.6%を上回る成長率が必要だというのが本当のようだ。しかし、経済的に成熟した社会にとって、このような高い成長率を維持することは不可能であるため、失業は先進国にとって、これから何年も重大な問題になるだろう。そして、それに対して政治的、経済的リーダーともに、国民に対して示せるような簡単な解決策を持たないだろう。

 事実、この経済回復の弱さや職を増やせないということは、世界的な経済変革が進行していることを示す、いくつかの現象のうちの一つなのだ。この変革によってもたらされる構造的な変動は、世界経済のプレーヤーに対して、新しいゲームのルールと、今までにない振る舞い方を求めている。

 おそらく、現在の変革の最も壮観な部分は、世界の経済センターの重心がアジアに移りだしていることだろう。1960年代末から、東アジアで起こった脅威的スピードでの経済成長は、世界の経済パワーの移動をもたらしているが、その衝撃は、最近やっと感じだされ始めたばかりである。東アジアは、かつて世界の経済の4%を占めるにすぎなかった。今日、そのシェアは25%にもなっている。過去25年間、アメリカとヨーロッパでの成長率が、平均2.5から3%台で推移したのに比べ、東アジア諸国は年平均6.5から7.5%台を維持してきた。そしてこの傾向は、20世紀の終わりまで継続すると見られている。1992年から2000年までの間、世界で新しく生まれる購買力のうち、40%はアジアで生まれると予想されており、世界の輸入量の伸びのうちの35%から40%はアジアで吸収されるだろう。東アジア諸国の中央銀行では、世界の外貨準備高の45%近くを保有している。アメリカやヨーロッパ諸国が対外債務を増やしている一方で、日本、台湾、シンガポール、香港などはいっさい債務がないという、驚異的な立場を保持している。

 これらの発展が意味することは、すでに経済的には、世界は三極構造、つまり西ヨーロッパ、北アメリカ、東アジアという経済的に均衡する、3つのパワーセンターの時代に入ったということだ。今の傾向がこのまま続くとすれば(何らかの予想できないような地域変動でも起こらない限り、おそらく続くだろう)、東アジアは今世紀の終わりには、他の2つのセンターを超えた、抜群の力を持つようになるだろう。

世界的な経済変革

 世界の経済秩序を変える数々の発展によって、アジアへの経済パワーのシフトが起こったが、逆にまたパワーのシフトが、経済秩序を変える発展をさらに加速させた。今や金融の流れを阻む地域間や国家間の障壁は存在しない。さらに技術や経営、マーケティング知識はどこでも見られ、経済的成功への鍵を握る必要条件は一つの国から別の国へ、どんどん移転させることができるようになってきた。

 同時に社会主義が失敗し、経済自由化の波がこれまで孤立していた国、中国、インド、ベトナムなどを世界経済へ登場させた。突然、25億人もの消費者が世界市場に現われ、このような成長は、かつて敵対していた国々の中でも、海外投資をめぐっての激しい競争を呼び起こした。

 このような状況はまた一方で、工業生産の世界的な脱地場産業化をもたらした。この現象が、世界的な経済変革のまさに核であり、それにはずみをつけている。10年前には、低技術の労働集約的な生産に特化していた国々が、かつて先進国が独占していた製品やサービスを、今ではより低いコストで生産できるようになっている。特筆すべき例として、マレーシアが挙げられる。この国は、この20年の間に日用雑貨生産への依存をやめ、現在世界の半導体の主要生産国であり、労働集約的な産業から脱皮しようとしている。