インダストリアル・デザインのこれまでの使命は、製品の外観や印象をよりよくすることで、エンジニアリングやマーケティングをサポートすることだとされてきた。デザイナーは、そのまま市場に出してもパッとしない陳腐な製品に、流行性やシンプルさ、あるいは美しさを与えてきた。

 現在、一握りのパイオニア企業――トムソン・コンシューマ・エレクトロニクス、アップル・コンピュータ、ノーザンテレコム――では、これまでほとんどの企業が最後に考慮していたこと、すなわち「製品のユーザビリティ」(使用性)を最前面に押し出し、インダストリアル・デザインの領域を広げている。

 利用者と製品とは、相互に関係し合っているが、その関わり方はさまざまで、いろいろな次元で考えられる。この相互関係にある問題を解決していくために、インダストリアル・デザインが考慮すべき新しい領域である、ユーザビリティの意味を拡大深化している。

 従来のデザインでは、ユーザビリティとは、ほぼ人間工学(エルゴノミクス)を考えることに過ぎなかった。つまり、人々がモノに対して、どのように手を伸ばし、取り上げ、運び、つかみ、操作し、あるいは使うかといった情報を物理的な製品に取り込むことを意味していた。

 しかし、「ユーザー本位のデザイン」には、これまでのユーザビリティの定義を超え、人々がその製品を使うことをどう感じているかといった精神的、感性的な側面、さらにその製品がどのくらいスムーズかつ自然に使えるかといった製品の使い勝手についての認知という側面を含んでいる。

 言い換えれば、その製品を操作するとフラストレーションを感じるとか、それとも自由自在に使えて、使うことが楽しくなるとかということである。

 ユーザー本位のデザインを志向するデザイナーは、このような相互関係――ユーザーと製品の間のダイナミックな空間――について理解し、理解できたことを製品の形にして表現しようとする。

 そのためには、プロトタイプを使ったフィールド・テストや、認知プロセスの心理モデルのほか、人々が既存の製品の短所をどのように補っているかの観察も含め、幅広いアプローチがなされている。

 ユーザー本位の製品のためのデザイン・グループを設立した会社の中には、この広い意味でのユーザビリティを自社の製品に組み込む方法を統一し始めているところがある。

 これは容易な仕事ではない。この新しいデザイン領域は、例えば「ある車の運転についてどう感じるか」といった、うまく説明できない経験についての「感覚」をテーマとするのである。