今日のビジネスの世界において情報革命が、企業の生み出す経済的価値に、大いに影響を与えている。具体的には、情報革命によってはるかに簡単に情報が収集でき、商取引の形態や価格決めなども違った形で行われるようになっている。最も重要な点は、製品やサービスに関する情報が、製品やサービスそのものから切り離されてきているということだ。製品やサービスに関する情報が、実際の製品やサービスと同じくらい重要になっていて、企業の収益を左右するようなケースもある。

 日本で中古車を扱っているディーラーがいくつあるだろうか。日本では、中古車は1980年代中盤まで、週に1回決まった場所に運ばれ、オークションで小売業者に売られていた。この伝統的なオークションというやり方は、1回で在庫の45%しか売れず、そもそも効率が悪かった。しかし、1985年に藤崎真孝という起業家が、オークネットと呼ばれるコンピュータと衛星通信を利用した独自のシステムを作り上げ、この売り買いのやり方自体を変えてしまった。毎週、中古車の売り手はオークネットにアクセスし、売りたい車のリストを提供する。そして、オークネットの検査員が売り手のところに足を運び、売り手から得た情報を確認し、車を点検し、写真に収める。収集した情報はデジタル化され、レーザーディスク上に記録され、システムに加入しているディーラーに配信される。週末になると、オークションのスタッフの仲介により、全国のコンピュータ端末を通じてオークションが行われる。そして、売れた車は買い手の指定の場所へ届けられる。

 オークネット・システムでは、物理的に車を在庫しておく場所と、実際に売買を行う場所とを完全に分けている。実際の「もの」を中心とした従来の買い手、売り手の関係はそこにはない。この種の新しい取引形態(「空間市場」取引と我々は呼ぶ)は、従来の物理的な市場(以下「物理市場」と呼ぶ)での取引形態とは異なる。異なる点は以下のとおりである。

 □取引の中身(Content)が異なる…車そのものに取って代わり、車に関する情報が、やりとりされるようになった。

 □取引の発生する背景(Context)が異なる…顔を突き合わせての取引から電子的なコンピュータ画面上での取引となった。

 □取引のためのインフラ(Infrastructure)が異なる…車展示場がコンピュータと通信回線に置き代わった。

 この空間市場取引によって、コスト削減が可能になるし(車をあちらこちらと運びまわる必要がなくなった)、何といっても簡便で(加入者がコンピュータ端末で情報を入手できる)、かつ、多くの人に情報を提供できる(すべての加入者が情報にアクセスできる)という利点がある。さらに、従来のオークションに比べて、一つの物件に対してより多くの申込者が集められるので、売り手としては、結果的に平均6~7%のマージンを余計に取れる。買い手側も、簡便に多くの情報の中から良いものを探せるのだから少々高くてもいいという心理が働く。オークネットもディーラーに対して専用端末をリースし、売り手が車を1台登録するごとに25ドルから50ドルを取り、車が売れた場合にはさらに約70ドルをチャージし、稼いでいる。1989年以来オークネットの正味のマージンは実際、平均20%以上である。

 このオークネットによって、展示場、在庫、車という「もの」が中心であった従来の物理市場は、画期的に変化した。簡単に表現すると情報による取引によって、顧客は、違った形態で商品についての情報を得て、違った形態で買い、配送も違った形態で行われるようになった。

 顧客の忠誠心も違った表れ方になってくる。従来の市場における差別化の要素がもはや重要ではない空間市場の世界においては、商品の中身が、商品そのものと切れ離され、流通も従来の物理的な場所から切り離され、商品のブランド価値も消え失せてしまう。商品と販売チャネルと販売促進活動は互いに切り分けが難しくなってくる。