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欧米ブランドのシャンプーを買える経済力を持っている中国人は、広東省だけでも何千万人にも上る。P&Gにしてみると、これはアメリカ以外では世界で2番目に大きいマーケットである。世界人口の4分の1にもなる11億2000万人の人口に、急速に拡大するマーケット。P&Gをはじめとする欧米のメーカーにとっては、中国は見過ごすことのできないチャンスである。
しかし、参入するとしても、中国市場にはまだまだいくつもの不確定要素がある。例えば、中国の経済成長は順調に続くのか、経済自由化の恩恵を受けていない内陸部の農民を、政府はいつまでコントロールできるのか、5年前の天安門事件の国際的な影響はどうなのか、鄧小平亡き後には必ず来るであろう権力闘争はどうなるのか、といったようなことである。万が一このようなことがきっかけになって、外国人排斥の風潮が強まれば、外国企業は中国市場から撤退せざるをえないだろう。
しかし、統計を見ると、このような懸念はいっこうに外国企業の中国市場への投資意欲を減退させていないことがわかる。外国企業の中国への直接投資は、1992年の110億ドルから93年には1110億ドルにもなっている。この巨額の資本流入によって、中国は今やアメリカ、日本に次ぐ世界第3位の経済規模を誇るまでになった(購買力平価で補正すると1兆7000億ドル規模と試算される)。
欧米社会では、買い物とはなんでもない日常の習慣であり、時には嫌な雑用でもある。消費者の購買意欲をそそるために、テレビコマーシャルやディスカント、スーパーマーケットの棚のぶん取りと、ブランドマネジャーたちは四苦八苦している。しかし、中国人にとっては、買い物をして消費するということは、新鮮で楽しい一日の大切な出来事なのだ。そして、この楽しみのためには、収入の8割以上をつぎ込むこともいとわない。おかげで都市住民の消費は年10%、農村部でも年8%という勢いで伸びている。
中国の国情
この中国市場で勝つためには、外国企業は仕事のやり方を中国の国情に合わせないといけない。商品の価値や質、利便性を中国人消費者にアピールしたいと思うブランドマネジャーなら、まずはこの中国の国情を理解しなくては商売にならない。
この国情という言葉は、2000年以上も前の書物から散見されるようになり、1920年代には(中国式の)社会主義や共産主義思想を喧伝するのに使われだした。1984年に鄧小平が共産党の指示として出したものには「西欧文化や思想は中国の国情に合うものだけが取り入れられるべきである。中国の国情にふさわしい考え方のみを奨励すべきであり、腐敗した不適当な思想は捨てなくてはならない」と明記されている。
外国政府や企業が一方的に、自分たちの考え方や物事の進め方を中国に押しつけようとしていると受け取った場合、中国人はしばしば、「中国の国情に合わない」という言い方で批判する。中国でうまくやっている企業は「国情を理解している」として称賛される。中国市場に参入している多くの欧米企業が、相互信頼や人間関係を大事にすることを学ばなくてはならないという。しかし、実はそれだけでは十分ではない。中国の国情を学ばずに、本国と同じように商品差別化や棚割りなどのマーケティングの戦略を駆使しても、ほとんどうまくいくことはない。
例えば、マーケターが忘れてはならない「中国の国情」のひとつには、「一人っ子政策」がある。(高齢化による)1人当たりの年金負担の増大や結婚できない男性の増加(胎児が女児と判明すると中絶が頻繁に行われる。そのため、男女人口比がいびつになっている)などが、次の10年には深刻な社会問題になるだろう。また、一人っ子政策のおかげで家庭の消費パターンはすっかり変わってしまった。高額商品の半分は家族の中の「皇帝」である一人っ子のために購入されていると推定されている。特に、子供用の高級品市場は急激に伸びつつある。
さらに、「中国の国情」のもうひとつには、国営制度がある。この国営制度の下では各省庁や軍、学校、国営企業などの経費によって、実は多くの個人的な消費が賄われている。経費によって賄われている消費額は(その4分の1は公式に報告されていないものの)、166億ドルに上ると推測される。購入品は自動車、家具、家電、事務用品からヘルスケア商品、娯楽にまで及ぶ。例えば、中国は93年に10万台以上の車を輸入したが、その99%が国営企業や政府などの経費によって購入されている。
儒教思想も中国文化のすみずみまで浸透しており、中国独特の国情をつくり出している。儒教の影響で周りの人間から距離を保つとか、自給自足や従順さに価値が置かれている。逆に、目下の者が目上の者に意見するとか、対等に互いに学びあったりすることは嫌われている。外国人であっても中国でコミュニケーションを図るときは、公式のルートか上のほうのチャネルを使うのが望ましい。例えば、宣伝でも政府の公式発表に使われる新聞やテレビ、ラジオをメディアとして使うのがいちばん安全、確実である。



