ずっと長い間、ビジネスと環境の目的は決定的に対立するものと思われてきた。一般的な常識では、ビジネスか環境のどちらかに役立つものは、必ず他の一方の障害になるとみなされてきた。しかし、世界各地の企業が「グリーン」になるための試みを始めて10年近く過ぎ、環境と経済は究極的には両立するという楽観的な見方も登場し始めた。この新しい見方は、環境とビジネスの双方が勝利を得ることが可能だというものである。グリーンであることは、もはやビジネスにとってコストではない。それは、常なる革新と新しいビジネスチャンス、そして富の創造のための触媒の役割を果たすものだという。

 アル・ゴア副大統領からハーバード・ビジネス・スクールのマイケル・ポーター教授まで、だれもがグリーンであることを誉めそやす。実際、ゴアは、環境面で前進することは、しばしば企業の効率、ひいては利潤を高める最も良い方法になると論じている。

 ゴアその他、この新しく広がりつつある考え方の推進者は、環境にとって利益となり、同時に経済的価値も生み出す、増えつつある事例をあげる。そのような環境と経済の「双方が勝利を得る」例として、ゴアはスリーエム社の「Pollution Prevention Pays(汚染防止が利益を生む)」プログラムを挙げている。同プログラムは、主に従業員が発案した3000以上のプロジェクトから成り、1975年以降、スリーエム社の汚染物質排出量を10億ポンド以上減らし、同時に約5億ドルの経費節減を可能にした。

 今日の「双方が勝利を得る」議論に異議を唱えることは、米国人が大好きな「母親とアップルパイ」に異議を唱えることに近い。環境に積極的に取り組むことが同時に利益を増進させるという考え方は、非常に魅力的である。しかし実際は、この人気の高い考え方は非現実的である。環境に取り組むことは常に高くつき、経営者の頭を悩ませてきた。実際、ほとんどの企業において環境コストは飛躍的に増大しており、経済的見返りはほとんど見られない。石油化学のような、すでに過剰設備や過当競争、利益の減少に悩まされている業界では、コスト効率のよいやり方で環境問題に対処する能力は、企業の存続可能性を左右するものともなるだろう。例えば、ある北米の化学企業では、ゴアが引用した「双方が勝利を得る」プログラムと同様の、従業員発案による環境プログラムが、55%の内部利益率を上げた。しかし、このような大きな利益率も、社内の環境プロジェクト全体に合算すれば、マイナス16%になってしまう。

 私たちは、「双方が勝利を得る」状態は存在しないと言うつもりはない。実際、そのような例は存在する。しかし、それは非常にまれなことであり、企業の環境プログラム全体のコストに合計すれば、その影は薄くなってしまう。「双方が勝利を得る」ケースは、決して金銭的見返りを伴わない膨大な環境コストを前にすれば、さして重要なものではなくなってしまうのである。

 例えばテキサコ社は、今後5年間で毎年15億ドル、通算して70億ドル以上を環境関連法の遵守と汚染物質排出削減のために投資しようと計画している。この額は、同社の資本ベースで3倍、資産ベースで2倍に相当する。言い換えれば、同社は、もしあるとしてもほんのわずかの収入しか期待できないプロジェクトで、資産を2倍にしようとしているということになる。このような巨額の投資が、株主に利益をもたらすだろうと、自信を持って言える人はいるだろうか。それは疑わしい。

 我々は、現在のおめでたい環境レトリックに疑問を持ち、「双方が勝利を得る」解決策が企業の環境戦略の基礎たりえるかどうかについて、考え直してみるべきである。母親(そして母なる地球)に反論する危険を冒して、私たちはノーと答えなければならない。環境に関する壮大な目標は、実質的な経済コストを伴う。我々の社会は、そのようなコストを厭わず、そのような目標を正しく選択するかもしれない。しかし、我々は自らを欺くことなく、事実を認識した上で選択すべきである。議論はたやすいが、環境に関する努力はそうではない。

 しかし、企業の環境担当者は、「双方が勝利を得る」解決策のみを求め続けるべきではないからといって、昔のやり方に戻り、あらゆる環境規制の努力と戦い、それらを無視し、骨抜きにすべきだというのではない。むしろその逆で、環境を保護すると同時に株主の利益にも配慮するためには、企業の政策決定が環境や企業戦略にどのような結果をもたらすかを深く理解し、環境保護団体や規制担当者と協力し、法制定の過程に関与し(あるいは法律を制定する必要がなくなるよう努力し)、汚染を浄化・防止するために真面目に努力することが、とりわけ必要である。今日の経営者に要求されているのは、最も大きな影響を持つであろう事項を察知し、それに対処する方法を知ることである。真に持続可能な環境に関する解決策を得るためには、経営者は、ほとんどすべての場合、対価を支払わずに何かを得るのは不可能だということを認識して、ビジネスと環境の間のよりよく賢いトレードオフを発見することに集中すべきである。

 環境支出の効率と有効性を高めることに集中すべきというのは、現在の「双方が勝利を得る」議論ほど聞こえはよくないかもしれない。しかし、長い目で見れば、そのようなアプローチのほうがずっと有効であろう。例えばデュポン社は、株価の35%に相当する額を環境保護関連の資本支出や運転経費に投じている。素晴らしいがとらえどころのない「双方が勝利を得る」状況を求めるより、同社は、長期的に環境支出の効率を高める方法を発見することによって、株主の利益をよりうまく保護することができるであろう。例えば、環境支出の効率を15%高めることによって、1株当たり3ドル近い利益を生み出すことができるであろう。

 他の汚染の多い業界の企業も、環境支出の効率を高める努力によって、同様の結果を得ることができるであろう。私たちは、業種によっては、環境コストの増加によって株価が4分の1から2分の1程度変動すると見積もっている。環境関連法を遵守するためのコストの増加によって、実際どれくらいの経済的利益が損なわれるかを知ることは困難だが、経営者がひるむような仕事に直面していることは明らかである。