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事業計画の策定に使われる論理的・分析的アプローチは、企業内ではごく当たり前のことだが、新規事業の開業に役立つことはほとんどない。階層別顧客アンケート調査、代替案の分析、競合商品のコスト構造や代替技術の検討などにかける金も暇もないのが起業家の常だ。実際、分析も度が過ぎるとマイナスになることがある。徹底的に調査しても、それが終わる頃にはビジネス・チャンスがすでになくなっていることもあろう。CD版レストランガイド・マップは1月になればベストセラーになろうが、遅れて12月になれば見向きもされないだろう。
勤務先の大学院の研究生による、「インク」誌1989年民間急成長企業番付「500社」から選んだ100社の創業者との面接調査と、100社を超える成長企業に関する調査によると、成功したアントレプレナーの多くは調査や分析にはほとんど時間を使っていないという結果が出た(囲み「プラニングはペイするか」を参照)。また、いったん立てた戦略をボツにして最初からやり直す例が多い。さらに、全米個人事業者連盟による1990年新規開業2994件の調査結果によると、検討、見直し、計画立案に長時間をかけた起業家がスタート当初の3年間を生き延びる可能性は、事業計画なしでビジネスチャンスを得た起業家より小さいことがわかった。事実、論理的分析を重視するわりには、企業のビジネスチャンスをつかむ能力はまことにお粗末である。分析を徹底するあまり参入のタイミングを逸したり、数多くの問題点を指摘しすぎてアイデアをつぶしたりする。
しかし、すべての新規事業にとって分析やプランニングは何らかのメリットがある。表向きとは裏腹に、成功を収めた起業家はむやみにリスクを負うようなことはしない。むしろ分析至上主義と成り行きまかせの中間を行き、素早い行動と金をかけないアプローチをとっている。彼らは完全を求めない。したたかさでは一流の起業家も出だしでつまずくこともある。しかし、起業家のアプローチは、企業のやり方と比較すると、より経済的で、タイムリーである。
プランニングはペイするか
インク誌1989年民間急成長企業番付500社中の100社の創業者との面接調査によると、アントレプレナーの多くは当初策定した事業計画の調査や分析にはほとんど時間を使っていないことがわかった。
41%は事業計画書なし
26%はごく初歩的なメモ書き程度の事業計画書
5%は投資家向けの財務計画をまとめたもの
28%は十分練り上げた計画書
この調査では、アントレプレナーはきちんとした事業計画書には気を使っていないこと、それにはそれなりの理由があることがわかった。彼らが奮闘する急速に変化する業界やすき間産業では、設立した会社を挫折させやすい。このような流動的な状況下では、難しい状況を凌ぐ能力が慎重な事業計画策定よりはるかに重要である。
「500社」中の2社、アトロニカ・コンピューターズとボーダン・アソシエーツの経歴が、起業家の新規事業における事業計画の限界を示す具体例である。キャロル・ソスディアンとアトゥール・タッカーの2人はともに大企業で働いていたが、1983年にワシントンD.C.でアトロニカを設立し、パソコンの小売りを始めた。キャロルの話では、アトゥールが「わずか数行の事業計画を書き、それを私のところに持ってきたのです。私はそれをちゃんとした事業計画書にまとめました。これには約1カ月かかりました。その後3カ月ほど検討を重ねました。これならうまく行くと思った内容になったところで、それを何人かの友人に見せました。この計画は友人のチェックを通過しました」
これに勇気づけられて、2人は2年もの間市場調査を行い、その結果15万ドルでバイトというフランチャイズを買収した。ところが、2人が最初の店を開いてから間もなく、バイトは倒産した。その後、2人はワールド・オブ・コンピューターズのフランチャイジーとなったが、これも倒産した。1985年、アトロニカはAT&T社と直取引のコンピュータ・ディーラーとして経営を始めた。このパートナーシップは成功し、間もなくAT&Tの最優秀ディーラーの一つとなった。アトロニカは顧客の対象を一般個人から会社員や公務員に切り替えた。アトロニカは、大手顧客のほうがはるかに儲かることがわかった。その専門技術とサービスが高く評価されたためである。
ピーター・ザッカキューはワシントンD.C.の郊外でボーダン・アソシエーツを創設した。アトゥールとキャロルがアトロニカをスタートさせた同じ年である。しかし、彼は調査は全くしなかった。彼はベクテルの社員だったが、副業で節税対策投資をしていた。彼は節税額計算用にコンピュータを買い込み、所得からそのコストを控除することを考えた。その年は余分に控除されたことがわかった彼は、自分のコンピュータを売却する広告をワシントン・ポストに掲載した。約50件の問い合わせがあり、コンピュータは売れて利益が出た。もし50台あったら全部売れたはずだと計算して、ピーターは自宅でコンピュータの販売を始めた。彼は当時を振り返り次のように話している。「最初は少しばかり儲けてクリスマスの費用の足しにでもできればと考えただけです。妻が日中にシステムのセットアップを済ませ、私が夜納入したのです。月30万ドルになりました。会社にフルタイムで勤務しながらです。当時私は、会社で得た収入以上を稼ぎました」。
アトロニカ同様、ボーダンも勤め人相手に進化した。「最初は広告を見て問い合わせてくる個人に販売していました。しかし、彼らは勤め人で、勤め先の購買担当に、『買えるところを知っているよ』と話すでしょう。このビジネスはすべてロコミです。サービスではだれにも負けません。自分で納品し、インストもやり、操作方法の指導に時間を割きます」。1985年、コンパックの機種が売れ始めてからボーダンはコンパックのディーラーになり、順調に業績を伸ばした。「私たちは後追い型です。先行型ではありません」とピーターは述べている。「ビジネスが向こうからやって来ます。それに対応するだけです。事業計画など立てたことはありません」。
起業家ならではのアプローチを会得するのに大切な要件とはいったい何か? これまでの知見から起業家を志す人のためのガイドライン3カ条を紹介しよう。
一、ビジネス・チャンスを素早く選び出し、見込みのない事業を見捨てること。
二、アイデアの分析には金をかけないこと。少数の重要課題だけに的を絞ること。
三、行動と分析を統合すること。すべての答えが出るまで待たず、いつでも方向転換できるように心掛けること。
見込みのない案件の選別
起業チャンスを追い求める人たちは、数多くのアイデアを考え出すのが常だ。実現の可能性の低いアイデアを素早くふるいにかけて落とし、さらに調査分析を進めるメリットのあるものだけに的を絞ることができる。
将来性のない新規事業のふるい落としに必要なのは判断力と洞察力であり、新たなデータではない。起業家なら、見込みのあるアイデアかどうかを決めるポイントはよく押さえておくことだ。これまでの研究によると、創業者が顧客または社員として個人的に取り組んできた問題を解決するのは、新規事業がスタートしてからのことである(図1「起業家のアイデアの源泉」を参照)。




