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1990年代の経営環境は、リスクが強いられ、複雑かつ不確実な状況にある。変化する環境に対応した経営が常に必要なことは多くの人々が認めるところだが、リスク管理のフレームワークや不確実性にうまく対処するためのツールに関しては、ほとんど提案がなされていないのが実態である。
しかし、以下に紹介するメルク社のCFO(財務最高責任者)、ジュディー・ルーウェントと彼女率いる500人の財務チームは、製薬業界にはどうしてもつきまとう高いリスクに対処する手法を開発した。この手法は先述した問題への解決方法の一つと言える。
一つの薬を世間に出すまでに、平均して3億5900万ドル(アメリカ・ドル/以下同)のお金と、10年の歳月が必要だとされている。仮に市場に出されても、全体の7割方は資本コストをカバーできる収益を上げられない。
しかも、もともとハイリスクなこの商売をますます不確定にしている要因が医療保険の制度改革である。制度改革が行われると、例えば、画期的な新薬の価格が抑制される、薬の製品寿命(プロダクト・ライフサイクル)が劇的に変化する、あるいは現状ですら儲からない処方薬の収益性は永久に低いままになるといった懸念が抱かれている。
このような先行きの読めないシナリオに加えて、メルク社のような多国籍企業は、金利や為替の変動リスクといった一般的なリスクも抱えている。
以上のような環境を考えてくると、メルク社の財務チームが、不確実性が恒常的である製薬業界に慎重な財務リスク管理手法を導入したことを誇りにする理由もわかる。
HBR誌の上級編集委員であるナンシー A. ニコルスとのインタビューで、ルーウェントは財務に対する科学的アプローチについて語っている。この科学的アプローチは長期的視野に基づくものであり、またメルク社全体の経営戦略とも密接に関連している。44歳になるルーウェントは、アメリカ企業に働く女性の中でも最高位についている一人であり、しかも大企業のCFOの肩書きを持つ唯一の女性である。
マサチューセッツ工科大学(MIT)のスローン・スクールの卒業生であるルーウェントは、1980年に新設された「買収および資本分析部長」としてメルク社に入社したが、以前はファイザー社で部門管理者を務めていた。彼女は財務部長を3年間務め上げた後、1990年にCFOに任命された。
またメルク社には、「上級意思決定グループ」という7人のメンバーで構成されている会長の諮問機関があるが、彼女はその一翼を担っている。
不測のリスクと変化を科学的アプローチで管理する
HBR(以下ゴシック部分がHBR):メルク社が現在直面している課題は何ですか?



