急速に進展する技術革新の渦中にありながら、依然として活力を失わず、かつ最も成功している製薬企業は、混迷の時代に即応しようとするあらゆるタイプの企業の経営者に貴重な教訓を与えてくれる。

 製薬業界は、例えばアメリカの医療保険の制度改革のように、今後も重大な経営課題に直面することだろう。しかし、きわめて重要な研究領域における製薬企業の成功体験こそ、情報化社会の重苦しい事業環境の中で必死に独創性を発揮しようとする企業のよいお手本となる。

 工作機械、鉄鋼、電子写真、自動車、半導体、コンピュータのような業界では、技術革新をテコに新規参入企業が台頭し、昔日の名門企業に取って代わったり、その地位を脅かしたりしてきた。これに対して、製薬業界を支配してきたのは、1940~50年代に設立された企業である。

 これらの企業は、因習的な常識にとらわれないという考え方を摂取して、その成長力を示してきた。彼らは、その企業年齢、規模、過去の成功体験にもかかわらず、その10分の1程度の規模しかない新興中小企業が持っているような柔軟性や即応性を維持する術を磨いてきた。他業界の企業が競争優位のために研究の領域で悪戦苦闘しているが、彼らにすればもはや解決済みなのだ。

 ブリティッシュ・コロンビア大学の戦略経営学科のイアイン・コックバーン教授と筆者との共同研究によれば、製薬企業の寿命がかくも長いのは、ある独特な経営能力、つまり高水準の専門知識を組織の中で育成する能力が脈々と息づいているからである。

 また製薬企業では、知識情報が過去からの組織の中に埋没したり、不断に変化する競争環境で無用の長物と化してしまうことがない。

 現在GM、IBM、DECといった大企業が窮地に陥っているのは経営者が無能だからではない。逆説的だが、彼らの困惑はこれまでの成功がもたらした当然の帰結なのだ。

 これらの大企業は、組織に染み込んだものの考え方、情報の選択方法、その世界観を形成している問題解決法、総じて従来の成功パターンで新しい課題を解こうとしており、過去の発想の囚徒なのである。

 しかし、優れた製薬企業はこの落とし穴にはまらなかった。むしろ自分たちが拠りどころにしている科学知識の劇的な変化に呼応して自らを変革してきたのだ。

 これら成功企業の秘訣を学ぶことこそ、科学技術が急激に変化する事業環境にある今、企業が不断の革新を達成していくには、いったいどうしたらよいのかを考える絶好のヒントになるわけである。