-
Xでシェア
-
Facebookでシェア
-
LINEでシェア
-
LinkedInでシェア
-
記事をクリップ
-
記事を印刷
「低価格化こそが90年代の競争であり、ハイテク製品でさえ日用品になりつつある」という論調を、エドワード R. マクラッケン氏は笑って傍観している。彼には技術革新の最先端を走り続けることが競争優位を保つ唯一の道であるという、強い信念があるのだ。
マクラッケン氏の考えは、型にはまらない自由なものかもしれないが、自慢することを許される数少ないコンピュータ会社のCEOだ。なにしろ、彼の会社、シリコングラフィクス社は、IBMからアップルやDECまでが対処に苦慮している急速な環境変化やカオスの難局を乗り切っているだけではなく、事実、繁栄さえしているのである。多くのコンピュータハード、ソフト会社がこぞって収益が紙一重での黒字もしくは減収に追い込まれている中、急成長中のシリコングラフィクス社の93年6月期決算は、売上高が10億900万ドル、純利益で9520万ドルを記録した。
1982年に創業したジェームス H. クラーク氏は、彼がスタンフォード大学の教授時代に開発した〝ビジュアル・コンピューティング〟の将来性を確信していた。その当時までコンピュータ・グラフィクスは2次元の世界だったが、クラーク氏の技術革新は画面上で3次元画像を作成し、動かすことを可能にした。彼の目標であった簡単な操作で現実のようなイメージを作ることは、新薬の分子構造を模索する化学者、ジェット機や自動車の設計技師、また、特殊効果を創造する映画制作者など、コンピュータを利用する人たちの生産性を向上させることになった(インダストリアル・ライト&マジック社はシリコングラフィクス社のマシンを利用して、「ターミネーター2」の液体金属サイボーグや、「ジュラシックパーク」の恐竜、「アビス」では海の生物を作成した)。
ビジュアル・コンピューティングの時代が到来する確信が、シリコングラフィクス社の色鮮やかな製品群にディジタル・オーディオとビデオの能力を備えるための推進力となった。最新のデスクトップ機〝インディー(Indy)〟では、手軽にテレビ会議ができるディジタル・ビデオカメラが標準装備になっている。ディジタルのオーディオ、ビジュアル機能には大変複雑なアルゴリズムを高速で処理する能力が要求される。これらの処理を高速化するために、画像(グラフィクス)処理のプログラムをソフトウエアではなく、シリコンチップに焼き付けてハードウエアで実行させたのは、クラーク氏の技術革新の一つである。それが社名の由来である。
シリコングラフィクス社の主力商品は、今でも主に科学者や技術者が使用するワークステーションである。しかし、画像処理のさらなる高速化を追求して、製品の領域は今やスーパーコンピュータまで広がった。この1月、シリコングラフィクス社は一番安いモデルが12万ドルを切るスーパーコンピューテイング・サーバー〝パワーチャレンジ(Power Challenge)〟を発表した。また、7月には〝インディー〟を発表し、シリコングラフィクス社はスーパーコンピュータとは対極にある普及機までその製品を拡大した。初めて5000ドルを切る〝インディー〟で、シリコングラフィクス社はアップル社のマッキントッシュやIBM-PCおよびその互換機のハイエンド機市場に参入した。さらに、インタラクティブ・ディジタルTVにおけるタイムワーナー社との提携や、家庭用ゲーム機における任天堂との提携によって、この会社の技術がマスマーケットに投入されるのも時間の問題だ。
ジム・クラーク会長がシリコングラフィクス社の予言者だとすれば、ヒューレット・パッカード社で16年勤めた後、1984年に入社したエドワード R. マクラッケン社長は戦略と組織の創造者と言えるだろう。このインタビューでマクラッケン氏(49歳)は、ハイテク分野に限らず、動きの早い業界で繁栄するためには何が必要かを述べている。以下のインタビューは彼がカリフォルニア州マウンテンビューの会社本部、およびサンディエゴで「ハーバードビジネスレビュー」編集主幹、スティーブン E. プロケッシュに語ったものである。
長期にわたる製品計画は危険
HBR(以下ゴシック部分がHBR):ハイテク産業も含む多くの産業で、何事もより速く、いっそうの効率化で低コスト化を図る、いわゆるタイムベース競争が、必ずしも高収益をもたらさないことがわかってきましたが、何が問題だとお考えですか?
E. R. マクラッケン(以下略):業界の通念的なやり方が問題です。つまり、コンピュータ産業も含めた多くの産業が日用品ビジネスになってしまって、新製品開発から市場投入の期間短縮自体が競争となっていることです。そのような企業は、規模の経済性を享受するために、ハイエンドよりもマスマーケットがより重要であると信じています。それゆえマスマーケットでは価格が競争上の鍵と考えているから、技術革新よりも低コスト化によるコスト・リーダーシップを目指して奮闘することになる。
こうした企業は、業界トップに追い付こうとして、あわよくば一歩先んじるために、めまぐるしく変わる市場環境のカオスに必死で対処している。我々は、カオスにうまく対処することではなく、カオス自体を創出することが競争優位獲得の鍵であるとの哲学を持っています。そしてカオスの創出者であるための鍵は、技術革新のリーダーであることなのです。
その典型例がコンピュータ産業です。コンピュータが日用品化していくと考えている人たちは、価格はどんどん安くなり、競争力は技術革新よりも、製造コストと流通の比重がいっそう高まると信じている。だから、彼らは顧客とのコミュニケーションのためのコストと同様、研究開発費も削減することができるのです。



